丹野未雪(たんの・みゆき) 編集者、ライター
1975年、宮城県生まれ。ほとんど非正規雇用で出版業界を転々と渡り歩く。おもに文芸、音楽、社会の分野で、雑誌や書籍の編集、執筆、構成にたずさわる。著書に『あたらしい無職』(タバブックス)、編集した主な書籍に、小林カツ代著『小林カツ代の日常茶飯 食の思想』(河出書房新社)、高橋純子著『仕方ない帝国』(河出書房新社)など。趣味は音楽家のツアーについていくこと。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
アナキズム、沖縄、労働……この雑誌だからやれるマイナーなことをやる
時事的な社会問題を特集、キリスト教界誌というイメージを覆す企画を次々と打ち出し、いま、静かな注目を集めている月刊誌『福音と世界』。「こちらとしてはあくまで本道」と語る編集部の堀真悟さん(30歳)に会ってきた。
堀真悟 1989年生まれ。早稲田大学大学院在学時よりキリスト系団体の出版局の月刊誌編集に関わる。2016年、新教出版社入社。月刊誌『福音と世界』での主要特集に「労働に希望はあるのか」(2018年6月号)、「アナキズムとキリスト教」(2018年10月号)、「人類学とキリスト教」(2019年4月号)、「『差別』再考」(2019年6月号)、「現代のバベルの塔――反オリンピック・反万博」(2019年8月号)など。書籍編集も担当しており、『未完の独立宣言――2・8朝鮮独立宣言から100年』(今秋刊行予定)、『主は偕にあり――田中遵聖説教集』(12月刊行予定)などを準備している。
——ポピュリズム、民主主義、労働、LGBTQに関する特集など、キリスト教界誌の枠を打ち破るような企画が続いています。誌面に並ぶ顔ぶれも、最新号の7月号ではラッパーのDyyPRIDEさんのインタビューが掲載されるなどユニークで、信仰を持たない側から見ても大胆だと感じますが、どういった狙いがあるのでしょうか。
堀 地味で固そうなキリスト教界誌なのにこんなことをやっている、というギャップを狙っている部分と、しかしこれが本道だという部分があります。たとえば、2018年10月号の特集「アナキズムとキリスト教」で巻頭を飾るのは、栗原康さんの「キリスト抹殺論」です。「福音の地下水脈(アンダーグラウンド)」というインタビュー連載では、写真家の植本一子さんにお話をうかがったり、さきほど話にでたラッパーのDyyPRIDEくんに登場してもらったりしていますが、二人ともいわゆるキリスト教というものにまったく関係のない方です。なぜこうした人選をしているかというと、彼らはキリスト教が呼びかけることができていないところに、本当の言葉を届けている人たちだと思ったんですね。
キリスト教は、規範を生み出し、それに基づき他者を裁くというように、とかく規範的な正しさを追求してきた。でも、源流をたどれば、正しさのためではなく、湧き上がるように実感する「本当のこと」のために闘ってきたことがわかる。フランスの思想家のシモーヌ・ヴェイユ、ドイツ革命を牽引したアナキストのグスタフ・ランダウアーが思い浮かびますし、なんといってもイエス・キリストがそうです。
ランダウアーは「神と世界に仕えるために、神と世界から離脱せよ」と語っていますが、僕の大好きな言葉です。キリスト教には「文書伝道」という用語があるんですが、思想を述べ伝えるのではなく、なんというか、キリスト教の「外」にあって、深い位相で言葉を扱い、表現している人たちに教えてもらい、一緒に考え、学ぶということが必要かなと。こちらとしてはあくまで本道をやっているつもりなんです。プロテスタント系のキリスト教界誌である『福音と世界』の主な読者は当然クリスチャンなんですが、あまりそこだけに訴えかけて自己目的化しても頭打ちになってしまう。
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