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斎藤貴男さんに訊くプロ野球・平成・自由と強制

井上威朗 編集者

 広島カープ、応援しがいのあるチームになりましたなあ。と強がる夏がやってきました。

 よせばいいのに深夜バスで遠征したりして、11連敗のうち半分ぐらいを現地で見届けてしまった「カープおじさん」である当方は、ぼっち観戦での連敗はつらすぎるので、著者の方と一緒に球場でダメージを受けることにいたしました。

 ということで不定期シリーズとして勝手に始まった本企画、今回お呼びしたのはジャーナリストの斎藤貴男さん。

 最新刊『平成とは何だったのか――「アメリカの属州」化の完遂』(秀和システム)で、平成を通じて日本では「個人」に対する抑圧がどんどん進んでいった経緯を書き切って評判の斎藤さん、「都心での取材のあとなら球場に行けます」とのことだったので、神宮球場へ来ていただきました。

試合が終わると雨もやみました。この理不尽さもまた野球の醍醐味?拡大神宮球場の斎藤貴男さん。試合が終わると雨もやみました。この理不尽さもまた野球の醍醐味?=撮影・筆者

酔っ払いが読む新聞を直撃するホームラン

――ご取材明けにお疲れ様です。

斎藤 神宮球場はアクセスがいいからね。あと、屋外で飲むビールは気持ちいいもの。

――そうですね。といいながら、今日は雨。ビールが薄まってしまいます。

斎藤 まあ、わざわざカネを払って雨に打たれたり、抑え投手の「劇場」を堪能したり、そんな楽しみ方ができるのも野球だよね。

――まったくです。カープファンは最終回に中崎翔太投手やフランスア投手がやけに出塁や得点を許したりする「劇場」を味わってしまうわけですが、球場に来ている人の多くはなぜか笑顔なんですよね。私たちはドMなのかもしれません。それにしても今年のカープは、変なチームになってしまいました。猛烈に負けたり劇的に勝ったり。

斎藤 いや、今年はどの球団も大変だよ。横浜もヤクルトもすごい連敗をしたし。広島も今年は本当にわからないね。ピッチャーはいいといえばいいんだけど、絶対的な存在がいないよね。

――大瀬良大地投手もエースになるかと思ったら、一発病に苦しめられているようでつらいです……。

斎藤 いや、セ・リーグ各球団、みんないい打者が揃ってきたからね。巨人の坂本はともかくとして、横浜は筒香・ソト・ロペス・宮崎がみな打つようになってきた。中日は故障が残念だけど高橋と平田がいい。若手でいえば阪神は近本と木浪がすごいし、ヤクルトは村上が出てきた。

――ちょっと斎藤さん、すごく野球観てるじゃないですか!?

斎藤 そうだよ。(スポーツ専門チャンネルの)J SPORTSを契約しているしね。おかげで(CMがヘビーローテーションで流れてくる)「しじみ習慣」にまでくわしくなっちゃった。ふた箱無料なんだよね。

――自分もあのCMを観てつい試してしまいましたが、肝機能の数値は別に……。まあ気にせず今日は飲みましょう。そう言っている間に、珍しくカープが勝ってしまいました。

斎藤 よかったねえ。自分もこの数年は広島に肩入れして観るようになってたんで、嬉しいよ。

――しかし、硬派のジャーナリストとして活躍されている斎藤さんが野球にここまで詳しくて、球場でカープファンとハイタッチしているとは。少し意外なイメージです。

斎藤 野球は子供のころからずっと好きだったから。普通に巨人ファンの、東京の小学生だった。それで親父に連れていってもらって、後楽園球場の巨人戦を観に行ったのが最初かなあ。

 あのころは選手名鑑の簡易版みたいな「ファン手帳」というものがあったんだよ。スポーツ新聞の編集部が作っていたんだけど、それを買ってもらって読んだら、近鉄っていうのが「リーグのお荷物」と書かれていた。

――昔のメディアは遠慮のない表現をしますねえ。

斎藤 でも本当にそう書いてあったんだよ。その極端な表現に興味をもって、それで、2回目の後楽園球場は近鉄戦に連れて行ってもらった。

 これが、最初に観た巨人戦と対極的だったので驚いたんだ。試合展開もデタラメだったし、観客も少ない。近くにいた酔っ払いはスポーツ新聞を読んでて、試合も観ていない。そうしたら近鉄の打者が打ったホームランが、ちょうどそのスポーツ新聞を直撃するんだよ。酔っ払いは何が起きたかわからなくて、でも近鉄ファンらしくて、「あと何点じゃー!」とか騒いでんの。

 これでパ・リーグの真髄を見てしまったんだね。それから近鉄が好きになった。大学生のころ、1978年に江川事件が起きて、巨人が大嫌いになり、完全に近鉄ファンへ、というわけ。

――でも当時のパ・リーグは、東京だとテレビはおろかラジオの中継もめったにないし、応援しようがないじゃないですか。

斎藤 だから大学生のころはずいぶん球場に行ったよ。後楽園での日本ハム対近鉄。そうしたら優勝したんだよね。それで吉祥寺の近鉄百貨店で清酒「バッファロー」っていうお酒を買って、サークルのラウンジに持って帰ってみんなで飲んだりしてた。

――だけど日本シリーズでは「江夏の21球」でカープに敗れてしまうんですよね。

斎藤 それでもセ・リーグでは広島をよく応援していたけどね。巨人が嫌いなら阪神へ、っていうのが当時の定番だったけど、それもいやだったんだね。


筆者

井上威朗

井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者

1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍などの編集を経て、現在は科学書を担当。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです