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ワクチン接種に多くの人びとが慎重になる理由とは?

牛山美穂 大妻女子大学准教授(文化人類学、医療人類学)

なぜ人びとはワクチン接種に慎重になるのか?

接種を受けた人に異常がないか確認する保健師役の女性=2021年2月19日午後2時37分、岐阜県笠松町田代20210219拡大接種訓練で、接種した際に異常がないか確認する保健師役の女性=2021年2月19日、岐阜県笠松町田代

 世論をみていると、ワクチンに対する人びとの慎重な反応が、マスコミがワクチンの恐怖を煽っているために起こるとか、人びとがワクチンに対して正しい理解をしていないために起こるといった見解がしばしば語られる。しかし、おそらくそうした理由だけでは、このワクチンに対する人びとの考えを十分に理解することはできないだろう。

 そもそも、ワクチン接種というのは、集団を守るという観点からすれば、できるだけ数多くの人に接種をしてもらったほうがよいものの、個々人の視点からみれば、副反応が起きるリスクもあり、「集団のため」に利益になることと、「個人のため」に利益になることが、必ずしも一致しないものである。

 集団を守ることを第一義に考えなくてはならない行政や医療従事者の視点と、自分自身の健康を第一に考える個々人の間には、そもそも、ワクチン接種に対する視点に違いがあって当然である。この点については、論座の香山リカの論考「ワクチンで知りたいのは『私に』有害事象や副反応が起きるかどうか――患者には『統計』ではなく『100か0か』しかない」により詳しく書かれているので、興味のある方は、ぜひこちらを読んでほしい。

 ここでは、そうした医療従事者と患者の視点の違いのほかに、ワクチンに慎重になる人びとの考えを理解するために手助けとなるであろう考えを2点挙げたい。

現在の医療が提供できないものに価値を見出す

集団接種の流れを確認する参加者=2021年2月23日午後2時44分、北九州市小倉北区 20210223拡大集団接種のシミュレーションで=2021年2月23日、北九州市小倉北区

 一般的に、医療を忌避する人びとの行動は、社会的に問題視されやすい。抗がん剤治療の拒否、アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用薬の拒否、向精神薬の服用拒否、そしてワクチン拒否が代表的な例として挙げられるだろう。

 一般的には、こうした医療を拒否する人びとは、医療不信に陥っており、医療に対する正しい理解が欠けているとみなされる。しかし、こうした人びとに調査をしてきてわかることは、こうした考え方だけでは、彼/彼女らの考えを十分に理解したことにならないということである。

 人びとが医療を忌避するときには、彼/彼女らは、医療が想定する「正しい治療」と異なるもの(=現在の医療が提供できないもの)に価値を見出している。それは、対症療法ではなく、より根本的に体質を改善することであったり、医療や薬に頼らずに自己の免疫力で身体を治癒することであったり、医療的な介入による身体的な不快感から逃れることであったりする。

 しばしば、医療を拒否する人びとは、セルフネグレクトと同一に語られたりするが、そうではなく、

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筆者

牛山美穂

牛山美穂(うしやま・みほ) 大妻女子大学准教授(文化人類学、医療人類学)

大妻女子大学人間関係学部人間関係学科社会学専攻准教授。千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了後、イギリスに渡りUniversity College London医療人類学コース修士課程修了。早稲田大学大学院文学研究科博士号(文学)取得。専門は文化人類学、医療人類学、ジェンダースタディーズ、カルチュラル・スタディーズ。現在の主な研究テーマは、医師と患者の関係、自助グループ、アトピー性皮膚炎をめぐる問題。主な著書に『ステロイドと「患者の知」:アトピー性皮膚炎のエスノグラフィー』(新曜社、2015年)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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