林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「日本人はこの制度をすんなりと受け止めると思う」
先のカンヌ国際映画祭(2022年5月17日~28日)で、早川千絵監督がカメラドール(新人監督賞)の特別表彰を受けた話題作『PLAN 75』が、早速日本で公開となる。カメラドール関連の賞としては、『萌の朱雀』(1997)の河瀨直美監督以来、実に25年ぶりの受賞だ。同賞の審査員長を務めたペドロ・アルモドバル作品で知られる個性派俳優ロッシ・デ・パルマは、本作に心底惚れ込み「今の私たちに必要な作品」と賛辞を贈っている。
映画の舞台は近未来。75歳以上が自身の生死を選択できる制度「プラン 75」が導入される日本だ。少子高齢化の解決策として政府が旗振り役となり推進する新制度だが、さして議論の深まりもないままに既成事実化してゆく様子が描かれる。
主人公のミチ(倍賞千恵子)は夫と死別し、客室清掃員の仕事に就く78歳。彼女は同世代の仲間と一緒に、この巨大なうねりに巻き込まれてゆく。映画は同時に、申請窓口や遺品整理、電話のサポートスタッフら、制度を推進する側の人間の素顔も掘り下げ、複数の視点から問題を見つめる視野の広さを持つ。
冒頭では若者が高齢者施設を襲撃するが、2016年に発生した「相模原障害者施設殺傷事件」と酷似している。かつて、この事件の加害者は「生産性のない人間は生きる価値がない」と語ったが、本作はそんな「命の切り捨て」に対する強烈な違和感や怒りを出発点としている。
本作の骨子は2017年頃に早川監督が構想。まずは是枝裕和監督がエグゼグティブ・プロデューサーを担ったオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018)の短編の1本として結実した。その後、国際共同製作としてフランス、フィリピン、カタールをパートナーに、長編作品を目指して再出発。長い準備期間と正味3週間の短い撮影期間を経て、カンヌ映画祭のわずか1週間前に完成した。
実は2014年に短編映画『ナイアガラ』で、学生映画部門「シネフォンダシオン」に参加している早川監督にとって、カンヌは「映画への扉を開いてくれた映画祭」だという。8年ぶりに自信作を携えて戻ってきた映画祭の期間中に現地で話を伺った(インタビューは2022年5月22日に実施)。
早川千絵(はやかわ・ちえ)
NYの美術大学School of Visual Artsで写真を専攻し、独学で映像作品を制作。短編『ナイアガラ』で2014年カンヌ国際映画祭シネフォンダシヲン部門入選、ぴあフィルムフェスティバルのグランプリ、ソウル国際女性映画祭グランプリなどを受賞。18 年、是枝裕和監督製作総指揮のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN 75』の監督・脚本を手がける。その短編をもとに本作で長編映画デビュー。
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