『ちゅらさん』『純と愛』……沖縄朝ドラに見る“困った娘たち”の系譜
2022年10月07日
Twitterの「#ちむどんどん反省会」では、登場人物の性格(キャラクター)も大いに論難された。中でも、ヒロインの比嘉暢子(ひがのぶこ、黒島結菜)の身勝手な態度と独断専行に厳しい批判が集まったことは前稿ですでに述べた。
「ちむどんどん反省会」の“正体”──ファンによるあるべき朝ドラへの希求?
確かに彼女の行動には、目に余るものがあった。自分に取り分けられた料理が少ないと文句を言うのはともかく、雇われ先のレストランオーナーに料理の勝負を迫ったり、いらないと断られた弁当を毎日持参して押し付けたり、幼馴染の青柳和彦(宮沢氷魚)の恋人に向かって「あなたがいるからあきらめる」とわざわざ宣言した上で略奪したりと枚挙に暇がない。
中でも批判者が声を荒げたのは、彼女の「KY」、「空気が読めない」鈍感さだった。これまた私が驚愕したのは、終盤の回で、妹の比嘉歌子(上白石萌歌)にようやく告白した砂川智(すながわさとる、前田公輝)が思わず彼女を抱きしめるかと見えた刹那、駆け寄った暢子が代わりに歌子を抱きしめてしまうという場面。もちろん、これは暢子への悪評を逆手に取った脚本家・演出家の仕業なのだろうが、思わず唸ってしまった。
ここで考察したいのは、沖縄を舞台とする朝ドラのヒロインたちに共通する性格的傾向である。どうも、彼女たちはよく似ているのだ。
もちろん、ヒロインたちは、「明るく・元気に・さわやかに」というキャラクタライズを宿命的に課されている。これは破ることを許されない“お約束”であって、多少のズレ・ブレが生じても、彼女たちはここへ必ず戻ってこなければならない。ただ、沖縄のヒロインたちには、もうひとつ無鉄砲というか、“所かまわず/相手かまわず”みたいな破天荒系のニュアンスが付け加えられるのが常である。
最初の沖縄朝ドラである『ちゅらさん』(2001年度上半期、脚本:岡田惠和)のヒロイン、古波蔵恵里(こはぐらえり、国仲涼子)は、子ども時代に離島・小浜島で、東京の少年・上村文也(小橋賢児)と交わした結婚の約束を守るために、何の当てもなく東京へ飛び出していく。偶然再会した文也には恋人がおり、恵里はいったん諦めかけるものの、告白を敢行する。
恵里の行動形態はほぼストーカーなのだが、彼女は怯まない。略奪愛を成就する彼女の大義名分は、幼い者どうしとはいえ確かに交わし合った契りである。私は、恵里と文也の約束に対する「非対称」的態度を沖縄と日本の関係の比喩として見たこともある(「『ちゅらさん』という物語──沖縄-本土の「非対象」な約束は守られたか」『論座』、2022/3/17)。
『ちゅらさん』の10年ほど後には、NHK大阪が製作した『純と愛』(2012年度下期、脚本:遊川和彦)という作品がある。宮古島と大阪を舞台に、ホテルの再生に取り組むヒロイン、狩野純(かのうじゅん)を夏菜が演じた。
このドラマがとにかく凄いものだった。
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