2010年11月01日
ステークホルダーミーティング(企業に関係する株主、消費者、NPOらとの対話)を開く企業が注目を集めている。株主総会とは、別な形式で、社外からの発言を受け、企業活動に生かしていくのが目的。CSR(企業の社会責任)活動の重要な一環と位置付ける見方もある。ステークホルダーミーティングが開かれるようになってほぼ7~8年。先進的な取り組みをしている2社の現状をレポートした。
日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一
■大和ハウス工業では2004年スタート
10月12日に開かれた経営倫理士講座(第14期)の第11回講義「経営倫理・CSRの取り組み事例」の中で、大和ハウス工業CSR推進室長・松本明氏が、自社ケースを解説。講義の中心は同社のステークホルダーミーティング。
同社のミーティングは2004年から年1回、開催。目的は、ステークホルダーの意見をとり入れることによる業務改善とステークホルダーの志向する方向性の把握。さらに、ミーティングを通じた積極的な情報発信だ。2005年からCSR推進室が発足、第1回開催当時は、CSR部門が未整備だったが、基本的には、発足時のやり方を踏襲している。その後、毎年開催、第1回と第2回では、(1)専門用語が飛び交い、ついていけない参加者も出てくる(2)意見を述べる参加者が限定的になる(3)企業と発言者が対立するイメージに陥りやすくなる―などの反省点が出た。
■各社の注目集めた公募形式
これらの状況を踏まえ、自ら発言を望む人がいるはず、これらの人を含む一般の人に参加してもらったら、と一般公募に踏み切った。同社のステークホルダーミーティングが企業間で話題になっていただけに、公募スタートはさらに注目された。
公募は、20名程度。方法は、オフィシャルHPでの告知、プレスリリース、エコほっとラインのメールマガジン(約1万2千人が登録)などで告知。自社の社員参加も呼びかけている。現時点では、一般のミーティングに対する認知度は、まだ低く、公募であっても殺到するほどの参加者数はない。
ミーティングを担当するCSR推進室では、開催への工夫、改善の結果、(1)会場レイアウトの工夫により話しやすい雰囲気を醸成(2)学生などの一般参加者にも議論しやすいテーマを設定、あまり専門家を入れない(3)経営の参考になるメッセージも求めていると発信することが重要だとまとめている。
ミーティングで出た意見を取り入れるため、会社側に反映させやすそうなテーマを選定し、関係部門に協力を要請している。またミーティングでの意見に対して役員レベルの公式見解も出している。HPへのアップをはじめ、CSRレポートへの掲載などで情報公開している。
■中立、公正に進行させるファシリテーター
■4テーマに公募参加は24人
松本CSR推進室長は「ステークホルダーミーティングと株主総会を比較の対象とは考えていない。むしろ株主総会は歴史と実績があり、会議の流れも出来ている。ミーティングはCSR部門が担当する重要な仕事。自社の情報開示とともに市民社会の意見・提言の受け皿と考えたい」と話している。
同ミーティングの第3回(2006年)からファシリテーターをしている小山嚴也関東学院大学経済学部教授は「ステークホルダーミーティングは、かなり大胆なものだが、この参加者を公募方式にしたことは、注目される。株主・投資家以外の企業関係者の発言を大切にする姿勢は評価できる」と話している。
■味の素グループのステークホルダー・ダイアログ
味の素の「ステークホルダー・ダイアログ(対話)」は、2004年12月にスタートしている。味の素グループ理念は「地球的な視野にたち、“食”と“健康”そして、“いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献する」としている。この理念の下、社会と対話することで、自分たちの取り組みの方向性が、社会の要請とずれていないかどうか検証できるという。
2004年12月 「環境報告書を読む会」(旧環境経営推進部 主催)
CSR部が2005年4月に設立され、以降同部が主催。
2005年12月 「食の安全とは」
2006年1月 「味の素グループのCSR活動にご意見をいただく会」
2006年9月 「味の素グループのCSR活動にご意見をいただく会」
2006年10月 「お客様満足の向上について」
2007年10月 「味の素グループのCSR活動にご意見をいただく会」
2008年12月 「味の素グループのCSR活動にご意見をいただく会」
2009年12月 「味の素グループのCSR活動にご意見をいただく会」
2010年11月 開催予定
(同社のダイアログは年2回開いていることもある)
■09年のダイアログは「QOLの向上」など5テーマ
09年のステークホルダー・ダイアログは、12月15日、味の素グループ高輪研修センターで開かれた。討議は、共通テーマとして「味の素グループの社会課題のとらえ方について」。分野別テーマは「QOL(生活の質)の向上」「生物多様性」「食資源確保・資源循環」「低炭素社会の実現に向けた発信提案」の四つ。
出席者はステークホルダー15名(企業、消費者団体、人権・環境・社会貢献などのNGOやNPO、メディア)。味の素グループ側は、12名(味の素(株)役員、コーポレート部門)。ステークホルダー側は、公募ではなく、出席依頼による参加。討議は分野別テーマに沿った4グループの分科会に分かれて同日午後、約3時間続けた。CSR部員がファシリテータを務めた。ダイアログの最後では、分科会から全体会に移行、各分科会毎に討議内容が発表される。ダイアログで出された意見は、すべて経営層および関連部署にフィードバックされる。またここで出された意見と、それに対する会社側の回答がCSRレポートに詳述されている。味の素グループも大和ハウス工業と同じように、経営サイドの深い理解があり、役員が参加している。
■企業との対話に、幅広い市民が参加
今回は先進的な取り組みをしている2社のケースを紹介したが、各企業が今後、株主総会とは別な形でステークホルダーとの対話路線を拡大していく可能性は高い。ステークホルダーミーティングやステークホルダー・ダイアログの担当者は「組織内での明確な位置づけ、運営方式を確立している段階ではないが、確実に手ごたえを感じている」という。情報開示、双方向コミュニケーション、経営への発言など、CSR企業の中核となる部分への幅広い市民参加は、これから進むだろう。
〈経営倫理士とは〉
NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接の結果、取得できる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの14期(14年間)で、377人の経営倫理士が誕生、各企業で活躍している。2011年は発足15年にあたるため、特別シンポジウムなどの記念行事が予定されている。
現在、経営倫理士(15期)取得講座の申込みを受け付けている。
受講スケジュール:2011年5月10日から12月6日まで13回開講。時間はいずれも午後2時から午後4時半まで。
会場:青山ダイヤモンドビル9F(JR渋谷駅から徒歩8分)
内容:経営倫理、CSR、コンプライアンス等について専門講師から13講座19テーマを学ぶ。
資格取得:期間中2回の論文提出、全講座修了後の筆記テスト、面接試験を受け合格した受講者に経営倫理士資格を授与。
受講料:18万円(消費税別、全講座1名分、資料代込み)
問い合わせは03-5212-4133へ。E-Mailはkeieirinrikyo@cz.blush.jp
千賀 瑛一(せんが・えいいち)
東京都出身。1959年神奈川新聞入社。社会部、川崎支局長、論説委員、取締役(総務、労務、広報など担当)。1992年退社。1993年より東海大学(情報と世論、比較メディア論)、神奈川県立看護大学校(医療情報論)で講師。元神奈川労働審議会会長、神奈川労働局公共調達監視委員長、日本経営倫理学会常務理事、経営倫理実践研究センター上席研究員、日本経営倫理士協会専務理事。「経営倫理フォーラム」編集長。日本記者クラブ会員。
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