2010年12月22日
▽筆者:沢木香織
▽この記事は2010年12月21日の朝日新聞夕刊(大阪)に掲載されたものです。
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裁判長から起訴内容への見解を聞かれた前社長は傍聴席と検察官席の遺族らに深々と一礼し、「亡くなられた方やご遺族、おけがをされた方に深くおわび申し上げます」と謝罪した。そのうえで「(起訴内容は)事実と全く異なる。そのような決めつけはショックだ。裁判で潔白を明らかにしたい」と全面的に争う姿勢を示した。
弁護側も罪状認否で「カーブでの制限速度の順守は、国家資格を有し、路線の情報を十分に把握した運転士の運転操作に委ねることができるというのが鉄道業界での常識的な考えだった」などと指摘。事故を予測できた可能性(予見可能性)と事故を防ぐ義務(結果回避義務)があった場合に成立する同罪にあたらないと主張した。
検察側は冒頭陳述で、現場カーブが半径600メートルから304メートルの急曲線に付け替えられた96年12月、前社長は安全対策の実質的な最高責任者だったと指摘。(1)JR西は90年以降、半径450メートル未満のカーブにATSを順次整備していた(2)カーブ付け替えに加え、97年のダイヤ改定で現場カーブを通る快速電車が急増し、脱線の危険性が飛躍的に高まった――とし、「速度超過による事故を予想してカーブにATSを付けることは当時の業界の共通認識だった」などと主張した。
こうした状況で前社長がATSを整備しなかったとする理由については、元部下らの捜査段階の供述などに基づいて主張を展開。ATSを路線ごとに整備する社内方針を絶対視した前社長が、危険なカーブに個別に整備したらコストがかかると考え、運転士に制限速度を守るよう指導すれば事故を防げると安易に判断したと指摘するとみられる。
遺族・負傷者は08年に導入された被害者参加制度を利用し、過去最多の約50人が法廷で前社長に質問したり、量刑意見を述べたりする。一方、神戸地検が不起訴処分としたものの、神戸第一検察審査会の起訴議決を受けて強制起訴された井手正敬(まさたか)元会長(75)ら歴代社長3人については、争点や証拠を絞り込む手続き(非公開)に向けた準備が進められている。
■過失の有無、どう判断 《解説》
なぜ、事故が起きたのか。遺族らが投げかけてきた疑問の解明が、5年8カ月の歳月を経て司法の場で進められることになった。
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