古西洋
2010年12月13日
問題を整理してみよう。報道の自由や出版の自由は民主主義社会にとって欠かすことの出来ないものであることは、独裁国家をみても明らかだ。ただし、報道される側にとっては、名誉やプライバシー、肖像権を侵害されるといった「被害」を被る危険を常に伴うのも事実だ。そこで裁判所は、名誉棄損についてはその報道や出版物の内容が公共性と公益性を持っており、なおかつ真実であれば違法にならないという考え方をとってきた。
裁判所がメディアの報道や出版内容を違法であると判断したとき、救済のやり方としては、被告メディアが原告に慰謝料を払ったり、謝罪広告を出したりといった方法がとられる。これとは別に、報道や出版をやめさせるという事前差し止めはもっとも強力な手段であり、それがゆえに例外中の例外の手段とすべきものだ。北海道知事選をめぐって雑誌の中傷記事の出版を差し止めたことの是非が争われた「北方ジャーナル訴訟」で、最高裁は1986年、(1)内容が真実でない(2)公益を図る目的でもない(3)著しく重大でひとたび出版されると取り返しのつかない損害を被る恐れがある、という基準を満たしていれば、例外的に差し止めが許されるという判断を示し、今日まで踏襲されてきた。
今回の東京地裁決定もこの基準を適用して差し止めを命じている。
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