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[22]桐光学園・松井裕樹攻略に挑んだ各チームの熱き戦い

内山賢一 フリーライター

 甲子園の新ドクターKこと桐光学園(神奈川)の2年生左腕・松井裕樹の攻略を果たした光星学院の仲井宗基監督は、試合後、お立ち台に上がるとこう松井を称えた。

「簡単に打てないピッチャーだと思ってたんですが、やはり簡単には打てなかった。素晴らしい投手でした」

 今大会屈指の強力打線で松井に挑んだが、15個も三振を奪われた。まさに手負いで掴んだ勝利だった。ほっとしたような仲井監督の表情は、松井がいかに「規格外」であるかを物語っていた。

 1回戦の今治西(愛媛)戦で、140キロ超の威力ある直球とキレ味鋭く「消える」と言われるスライダーを武器に、1試合22奪三振の新記録を達成した松井は、続く常総学院(茨城)戦で旧大会記録の19個、3回戦の浦添商(沖縄)では12個の三振を奪った。準々決勝の光星学院戦を含めて4試合連続2ケタ奪三振を達成し、歴代3位(1位・板東英二83個、2位・斎藤佑樹78個)の大会通算68奪三振を記録した。

 対戦チームの松井対策は、この夏の話題となった。

 常総学院は、スライダーが曲がり切る前に叩こうと投手方向へ移動してスイングした。浦添商は一か八かの対策を練った。試合前、浦添商・宮良高雅監督は、

「賭けなんですけど、うまくいくかどうか。でもやってみなければわからない」

 と前置きしながら、選手にこう指示した。

「打席の前に立ち、動きを小さくして、ノーステップで打つ。ストライクゾーンを上げて、低目の変化球を捨てる。ショート、ピッチャー、セカンド方向にゴロを転がすイメージで振り切る。松井の鋭い変化球や140キロ超の直球を見極めるためにファウルを多く打つ」

 序盤は宮良監督の思惑通りの展開になった。

 選手は松井の直球と変化球を見極め、しぶとく拾い上げた。初回は松井の初戦から続いていた毎回奪三振を止めた。立ち上がりは上々だった。その後も桐光学園に1点を追加されるものの、浦添商打線は安打や四球で出塁すると、足を絡めた攻撃で3回まで毎回得点圏に走者を進めた。

 3回を終了して0-2。奪われた三振はたった1個。宮良監督は手ごたえを感じていた。

「前半はボールの見極めができていた。打線が一巡してみて、正直いけると思いました。5回まで2点以内に抑えることが理想だったので、完全にうちのペースだと思っていました」

 5回裏の攻撃前には、こう言って選手を鼓舞した。

「(松井から)三振してないってことは、君たち、すごいことしてるんだよ」

 だが、「規格外」投手・松井はしたたかだった。「食らいついてくる」ノーステップ打法に対応し、後半は「打たせて取る」ピッチングに切り替えた。それが奏功して、浦添商打線に安打を許さず、徐々に三振も増えていった。

「後半は(松井の)体がキレてきて、さらに球もキレてきた。そこに対応できなかった。ただ、スライダーにやられたというより、投球術にかわされたという印象です。たとえば、高めの真っすぐで一度(打者の)顔を上げさせておいて、低目の変化球を決め球にするとか。あるいは(選手によって)タイミングが合っているボールがあっても、次はそのボールを投げてこないなど。うまいピッチングでした」

 試合後、宮良監督はそう語って脱帽した。

 1-4の敗戦。点差には現われないが、勝利まであと一歩という印象を受けた好ゲームだった。

 次戦の相手である光星学院の仲井監督は、浦添商の作戦とは逆の対策を講じた。

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筆者

内山賢一

内山賢一(うちやま・けんいち) フリーライター

1969年生まれ。歴史や旅行、スポーツ、ビジネス、エンタメ系など、興味があることなら何でも引き受けてしまう、悪食的よろずライター兼編集者。幼少から高校野球に惹かれ、以後はテレビにかじりつき、関連本を読み漁るなど、高校野球ウォッチャーを続けてマニア歴38年目に突入。高校野球関連では「Circus」「週刊朝日増刊甲子園」「甲子園Heroes」、ベースボールマガジン社のムックなどで執筆している。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです