2012年08月23日
「簡単に打てないピッチャーだと思ってたんですが、やはり簡単には打てなかった。素晴らしい投手でした」
今大会屈指の強力打線で松井に挑んだが、15個も三振を奪われた。まさに手負いで掴んだ勝利だった。ほっとしたような仲井監督の表情は、松井がいかに「規格外」であるかを物語っていた。
1回戦の今治西(愛媛)戦で、140キロ超の威力ある直球とキレ味鋭く「消える」と言われるスライダーを武器に、1試合22奪三振の新記録を達成した松井は、続く常総学院(茨城)戦で旧大会記録の19個、3回戦の浦添商(沖縄)では12個の三振を奪った。準々決勝の光星学院戦を含めて4試合連続2ケタ奪三振を達成し、歴代3位(1位・板東英二83個、2位・斎藤佑樹78個)の大会通算68奪三振を記録した。
対戦チームの松井対策は、この夏の話題となった。
常総学院は、スライダーが曲がり切る前に叩こうと投手方向へ移動してスイングした。浦添商は一か八かの対策を練った。試合前、浦添商・宮良高雅監督は、
「賭けなんですけど、うまくいくかどうか。でもやってみなければわからない」
と前置きしながら、選手にこう指示した。
「打席の前に立ち、動きを小さくして、ノーステップで打つ。ストライクゾーンを上げて、低目の変化球を捨てる。ショート、ピッチャー、セカンド方向にゴロを転がすイメージで振り切る。松井の鋭い変化球や140キロ超の直球を見極めるためにファウルを多く打つ」
序盤は宮良監督の思惑通りの展開になった。
選手は松井の直球と変化球を見極め、しぶとく拾い上げた。初回は松井の初戦から続いていた毎回奪三振を止めた。立ち上がりは上々だった。その後も桐光学園に1点を追加されるものの、浦添商打線は安打や四球で出塁すると、足を絡めた攻撃で3回まで毎回得点圏に走者を進めた。
3回を終了して0-2。奪われた三振はたった1個。宮良監督は手ごたえを感じていた。
「前半はボールの見極めができていた。打線が一巡してみて、正直いけると思いました。5回まで2点以内に抑えることが理想だったので、完全にうちのペースだと思っていました」
5回裏の攻撃前には、こう言って選手を鼓舞した。
「(松井から)三振してないってことは、君たち、すごいことしてるんだよ」
だが、「規格外」投手・松井はしたたかだった。「食らいついてくる」ノーステップ打法に対応し、後半は「打たせて取る」ピッチングに切り替えた。それが奏功して、浦添商打線に安打を許さず、徐々に三振も増えていった。
「後半は(松井の)体がキレてきて、さらに球もキレてきた。そこに対応できなかった。ただ、スライダーにやられたというより、投球術にかわされたという印象です。たとえば、高めの真っすぐで一度(打者の)顔を上げさせておいて、低目の変化球を決め球にするとか。あるいは(選手によって)タイミングが合っているボールがあっても、次はそのボールを投げてこないなど。うまいピッチングでした」
試合後、宮良監督はそう語って脱帽した。
1-4の敗戦。点差には現われないが、勝利まであと一歩という印象を受けた好ゲームだった。
次戦の相手である光星学院の仲井監督は、浦添商の作戦とは逆の対策を講じた。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください