潮智史(うしお・さとし) 朝日新聞編集委員
朝日新聞編集委員。1964年生まれ。87年入社。宇都宮支局、運動部、社会部、ヨーロッパ総局(ロンドン駐在)などを経て現職。サッカーを中心にテニス、ゴルフ、体操などを取材。サッカーW杯は米国、フランス、日韓、ドイツ、南アフリカ、ブラジルと6大会続けて現地取材。五輪は00年シドニー、08年北京、12年ロンドンを担当。著書に『指揮官 岡田武史』『日本代表監督論』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
本田圭佑がイタリアに渡って1カ月が過ぎた。8日にあったセリエA(イタリア1部リーグ)のナポリ戦は体調不良(胃腸炎と伝えられた)でベンチからも外れた。地元メディアを中心に、その評価は降下気味だ。
1月の移籍後、ナポリ戦を除く6試合すべての試合に交代を含めて出場した。セリエAで4試合に出場し、カップ戦は2試合で1得点という数字を残している。
この間、メディアの評価は激しく上がったり、下がったりしている。ACミランのチーム状態が良くないこともあり、背番号10を託した選手への期待感は良くも悪くも大きなものだった。そんな背景もあって、十分に予想されていたことだ。
イタリアメディアの厳しさは知られている。その試合のたびに採点して、いい悪いをきちんと評価する。そもそも、それも外から見ている人間が下すものであって、気にする必要はないだろう。
DFとしてインテル・ミラノに加わった長友と、攻撃を担う一員として入った本田の立場は違う。本田の場合は少なくとも受け身では通じない。チームづくりにおいて、守備を整えるのにかかる時間と攻撃を作り上げるために要する時間は大きく変わる。
周囲とのコンビネーションづくり、自身と周囲の特徴を理解し合うこと、こういうプレーをさせてあげれば、ちゃんとパスが返ってくるなという信頼関係を築くにはそれなりの時間がかかる。まして、本田は攻撃のすべてを仕切ってしまうようなタイプでもないし、古き良き時代のなんでもやってしまうような背番号10番でもない。試合を見ていると、本田はボールをもっと寄越してくれ、と不満を感じてはいるだろうが。
複数の相手選手を引きつけておいて味方を生かしたり、一度相手に体をぶつけておいて抜け出していったりするのが本田の持ち味だが、日本代表の試合のなかでも得点に絡むのはむしろタッチ数を少なくてして味方とパス交換をしながらプレーしている時だ。
その点で、ミランではまだ、「もっといいプレーをしてやろう」という感覚が強い気がしている。その分、シンプルさに欠けて、それがチームの攻撃からスピードを奪っているような。動いてパスを受けて、すぐに味方にボールを渡して、また動いてゴールに向かってパスを受ける。そういうリズムになかなかなっていない。
ただ、本田の良さが出せない要因をたぐっていくと、不調を抜け出せないでいるチーム全体に大きな問題があるように見える。
バロテリ、カカ、ロビーニョと攻撃陣には豪華なメンバーがそろうが、これに本田を加えた4人は常にぶつ切りの印象。さすがにカカとロビーニョのブラジル人同士はスムーズだが、4人が有機的に絡んだ攻撃にはなかなかお目にかかれない。
前線でひたすらパスを待ち続け、ごりごりと1人でしたがるバロテリ