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[7]SP世界最高得点の羽生結弦は、初の五輪になぜ平気でいられるのか?

青嶋ひろの フリーライター

 「結弦なんてついこの間まで、変なキノコ頭の少年だったのになあ……」

 けなしているのか、褒めているのか。たぶん呆れるほど、感心しているのだろう。中学生のころから結弦を知る人が、ショートプログラムの彼の演技と結果を見て、そんな電話を日本からかけてきた。

 そう、この際だからいろいろばらしてしまうが、彼はついこの間まで、ドリンクバーでコーラとメロンソーダを混ぜて喜んでいるような14歳だった。アイスショーでの自分の演技に興奮して、出演前の先輩スケーターにじゃれつき、「うるさいなあ、もうあっち行ってろ!」と叱られるような15歳だった。パトリック・チャン(カナダ)に大負けして悔しがり、「もうエキシビションも見ないで日本に帰る! 早く練習したい!」と駄々をこねるような16歳だった。

世界ジュニアで優勝したころの羽生結弦。当時15歳拡大世界ジュニアで優勝したころの羽生結弦。当時15歳
 「結弦君なんて、ちょっと前まで子どもだったくせに!」

 そんなことを全部ばらされても、今の羽生結弦だったら、余裕の顔で微笑んでいそうではないか。

 ソチオリンピック、ショートプログラム。

 本当に細かいことを言えば、彼の100%の演技ではなかったかもしれない。

 この振り付けはあともう少しだけ、タメがあるのがほんとうだろうな、とか、彼のいつものジャンプに比べれば、トリプルアクセルの助走にほんの少し焦りが見えたな、とか……そんな余計なことを考えてしまうのは、「パリの散歩道」を見すぎているからだろう。

 初披露は2012年の、夏のアイスショー。そこからショーで、試合で、2シーズンの間、何度見たかわからない。

 でもオリンピックだからスケートでも見るか、と初めてこのプログラムを見た人には、充分見ごたえのある「作品」だっただろうし、初めてのオリンピックという場で、誰もが魔物にとらわれてミスをしていくなかで、これだけできればもう、及第点をはるかに超えている。

 冒頭の4回転ジャンプなど、絶対失敗しないものの代名詞にしていいくらいの安定感。スピンの速さと無理のないナチュラルなポジションは、男子選手のものとは思えない「美」を感じさせた。

男子SPで世界最高得点を出した羽生結弦拡大男子SPで世界最高得点を出した羽生結弦
 大技も小技も十分な出来で、勢いだけの新人ではない巧さも、醸し出す空気もあった。そして浮ついたり前のめりになったりしそうな気持ちを、完璧にコントロールした強さもあって……史上初の100点超えも、これならば文句はない。「変なキノコ頭の少年」は、この夜、間違いなく日本の誇るエースだった。

 しかし彼は、なぜオリンピックという場に立ちながら、ここまで平気でいられるのだろう? 

 グランプリシリーズでも、全日本選手権でも、格のある大会はどんな試合でも、初陣は難しい。それがオリンピックとなれば、なおさら。

 高橋大輔だって、チャンだって、プルシェンコ(ロシア)だって、初めてのオリンピックは軒並み、期待されていた結果を出せていない。あの荒川静香でさえ、初めての長野五輪はいっぱいいっぱいで、オリンピックの怖さと乗り切り方を十分理解した2度目の五輪で、金メダリストとなったのだ。五輪は

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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