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[4]「がんばってね」か、「がんばりすぎないでね」か

青嶋ひろの フリーライター

*次回の配信日は確定次第お知らせいたします。
*10月23日(木)に高橋大輔選手の引退に関する記事を配信する予定です。

(承前) 続くスケーティングの全体練習では、4回転ループを決められなかった悔しさをぶつけるように、とびきりの滑りを見せようとする。

 「スケートだって、こんなにうまくなったんだよ!」

 得意げな声が聞こえてくるような、生き生きした滑りだ。オリンピックチャンピオンとなってのち、どんなにまわりの評価や見る目が変わっても、どんなに忙殺されても、彼のスケートに向き合う気持ちは変わっていない。

羽生結弦=2014年4月拡大羽生結弦=2014年4月
 とんとん拍子にも見える勢いで獲ってしまった、オリンピックチャンピオンの座。

 それが本当に彼にふさわしいものだったことを見せるためにも、今年が真の勝負だということを、彼はわかっているのだ。

 練習時間の、最後の最後――チーム全員がスケーティングを締めにしてリンクを上がろうとする中、彼だけがもう一度、ジャンプを跳びに行った。一度も決められなかった、4回転ループを、もう一度! どうしても皆が見ている前で、決めて見せたかったのだろう。しかし、これも失敗。

 負けず嫌いの彼らしい姿に、思わず頬がゆるんでしまう、そんなトロントでの公開練習だった。45分が、あっという間。

 「もう整氷車が出てきちゃいましたよ。早いなあ!」

仙台市の観光名所を紹介する羽生結弦選手の写真やサインが入ったポスター=市提供拡大羽生の地元、仙台市の観光名所を紹介するポスター=提供・仙台市
 時間が短く感じるほど、滑る彼を見ているのが楽しかったのだ。

 実はこの日の翌日、よほど前日の公開練習が悔しかったのだろう。フリーの通し練習にて、4回転サルコウ、2度の4回転トウループ、2度のトリプルアクセルのコンビネーションを含むすべてのジャンプに成功、パーフェクトをやってのけたという。

 今シーズンオフ、初めてのノーミス。そして3度の4回転をすべて入れたプログラムでの、初めてのノーミスだ。疲れていても、身体中が痛くても、やろうと思えばジャンプが跳べてしまうのも、この人の困ったところだ。

 「誰もいないところで、跳べてもなあ!」と、悔しくもうれしい成果を得て、初戦のフィンランディアトロフィーに向かおうとしていた、その日――。

 「背中も腰も、前よりひどくなっているじゃないか!」

 さすがにドクターストップがかかったのだ。

 ハードスケジュールの中、張り切りすぎた公開練習。あまりにも彼の身体には無理がかかっていた。

 このままではピョンチャンまで4年もたないどころか、今年のシーズンインまでもたない。そこまで言われて、強制的に練習は禁止、自宅で安静。

 そこからは毎日、腰を中心に

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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