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「スクープ」とは何か~新聞社は「時間差スクープ」の呪縛を解け!

「スクープの基準がない」ことが権力監視のジャーナリズムを阻んでいる

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

新聞社が検察担当記者に求める仕事

 この問題に関連し、朝日新聞の板橋洋佳記者は大阪社会部に所属していた2011年、筆者の長いインタビューに答えたことがある。板橋記者らは当時、大阪地検の特捜部検事による証拠改ざんをスクープしていた。自らの捜査ミスを隠蔽するため、証拠のフロッピーディスクを検事が改ざんし、被告を有罪に追い込んでいこうとした事件である。

 板橋記者らは、地道な調査報道取材によって検察権力の闇を暴き出し、日本検察を震撼させた。その取材過程で板橋記者は「捜査段階で証拠改ざんを明るみに出せていたら、濡れ衣を着せられた人たちは傷つかずに済んだはずだ」と自らを省みてもいた。

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 筆者のインタビューで、板橋記者は以下のような内容を語っている。拙著『権力VS調査報道』(旬報社)に詳しく載せているが、要点を示そう。

 他社も同じでしょうけれど、朝日新聞社という組織が検察担当記者に求める仕事は何か。その最大の眼目は「捜査の動きをつかむ」ということです。これを最もやらなければいけない。それが仕事のメインです。公判になると、検察担当の仕事はだいたい終わる(裁判担当記者が引き継ぐ)ので、一種のフリーになります。その段階で、僕は「自分の価値観でもう1回あの捜査を検証しよう」と思った。
 僕はよく「証拠改ざんをもっと早く記事化できればよかった」と反省で言っていますが、一方では、捜査段階の取材で本当にその情報を取れただろうか、とも思う。捜査段階でどこまでそんな情報を入手できるだろう、入手できたとしてどこまで記事にできるだろう、と。逆に言うと、なぜ、捜査情報が取れるかというと、記者側からすれば、「捜査の情報を教えてください」という構図での人間関係ができているからです。上司に最初から「捜査の不正やミスを見つけるためにおまえは検察担当になれ」と言われたら、相当厳しい。取材現場でも、いきなり、「あなた方は捜査ミスを隠蔽しているでしょう?」と言っても何も動かない。夜回り取材で検察幹部に会って、「どうですか、捜査ミスがあるでしょう」と聞いたって、「おまえは何だ」という程度で終わりです。そういう現実の状況があるわけです。
 捜査情報を得るための、捜査段階での通常の取材がなかったら、証拠改ざんの情報も取れなかったと思います。当たり前のことですが、捜査段階での取材から人間関係を作っているからこそ、捜査がおかしいと感じたなら、「あの人は関わっているに違いない」「ここから聞けばいいはずだ」ということがわかる。そういう細かな関係が頭に入っていないと、小さな事実を積み上げて不正に迫る取材はできないでしょう。

 この後、筆者はこう問い掛けた。「事件報道は必要だけど、捜査当局の動きを追っかける報道はもっと抑制するべきだ。事件報道は、その社会的意味や背景を問うもの。しかし、現状は捜査の途中経過報道に過度に傾斜している」という内容だ。

 それに対する板橋記者の回答は「スクープの基準がない」という核心を突いていく。長くなるが、もう少し当時の取材記録を引用する。

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

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