「オフレコ懇談会」を問い直す~菅首相と官邸記者の「パンケーキ朝食会」を機に
高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト
依然として「権力とメディア」の関係が問われ続けている。菅義偉政権の誕生後も、それは変わっていない。首相と番記者による「オフレコ懇談」は、その象徴だ。すでにあちこちで論評されているが、実際にはどんなことが生じているのか。過去の事例とも比較しながら考えたい。

菅義偉首相に対する内閣記者会のグループインタビュー=2020年10月9日、首相官邸
16社が参加、3社が欠席した「パンケーキ懇談会」
菅政権発足後に限って言えば、政権取材の在り方が最初に問われたのは、10月3日(土曜日)の朝に東京・渋谷の飲食店で行われた「内閣記者会に所属する記者との飲食を伴う懇談会」である。
その飲食店がパンケーキで有名だったことから、ネット上では「パンケーキ懇談会」などと称されている。もともと菅首相はパンケーキ好きとされており、あえてパンケーキで有名な店を開催場所に指定するあたりは、宣伝臭も漂う。
このオフレコ懇談はどういうプロセスで進んでいるのだろうか。匿名を条件として筆者に対応してくれた複数の記者らによると、まず、首相官邸からの連絡を受け取った「内閣記者会」(官邸記者クラブ)の幹事社から記者会の加盟各社に対し、官邸側の意向として以下の趣旨が伝達された。
・急な話で申し訳ないが、菅総理と内閣記者会加盟の常勤19社に所属する総理番記者との「完全オフレコ」の懇談を開きたい。
・10月3日と10月10日(いずれも土曜日)の朝8時から。「朝食懇」という形。首相秘書官も参加する。
・総理番登録記者だけで58人に上るので、2回に分けることにした。全社の記者が出席できるようにしたいため。
・休日の早朝で申し訳ないが、菅総理は官房長官時代も土曜日にも懇談会を開催したことがあるのは、各社承知だと思う。協力をお願いしたい。
10月3日のオフレコ懇談会には、以下の16社が参加したとされる。
列挙すると、新聞は毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞、北海道新聞(本社・札幌)、西日本新聞(本社・福岡)、中国新聞(本社・広島)、ジャパンタイムズの8社。
通信社は、共同と時事の2社。
テレビはNHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の6社。
朝日新聞と東京新聞、京都新聞の3社は欠席した。3社は、それぞれの紙面記事やHPで不参加の事実と理由を説明している。
◎朝日新聞
菅義偉首相は3日午前、東京都渋谷区のレストランで、内閣記者会に所属する記者と食事を共にする懇談会を開いた。
◇
朝日新聞の記者はこの懇談会を欠席しました。首相は日本学術会議の新会員に6人を任命しなかった問題をめぐり「法に基づいて適切に対応した結果です」と記者団に答えるにとどめています。朝日新聞は、首相側に懇談ではなく記者会見などできちんと説明してほしいと求めています。首相側の対応が十分ではないと判断しました。
◎東京新聞
菅義偉首相は3日、内閣記者会に所属する記者と都内で会食しながら懇談しましたが、東京新聞は欠席しました。
東京新聞は、首相が懇談ではなく、9月16日以降開いていない記者会見を開き、日本学術会議の会員任命拒否など内外の問題について、国民に十分説明することが必要という考えです。臨時国会の早期召集も求めています。このため懇談には出席しない判断をしました。
京都新聞は10月9日朝刊のコラム「プリズム〜東から」において、「首相懇談会」と題する記事を東京駐在の政治担当記者が署名入りで書いている。メディアと権力の関係を意識したもので、ジャーナリズムとは何かを改めて考えさせる内容だ。主たる部分を以下に抜粋しよう(コラムには下記の引用部分以外の続きがある。それは後述する)。
新型コロナウイルス対策や日本学術会議の会員任命拒否問題を巡る説明が求められる状況にもかかわらず、首相は就任時を除き、広く開かれた形での記者会見を実施していない。国会も開こうとせず、国民に対して所信表明すらない。ゆえに、見聞したことを記事にしない「完全オフレコ」が条件の飲食付き懇談会には参加できない。
いずれもオフレコの縛りがある懇談であれば、菅首相の発言を記事にできないため、目下の情勢を考えれば、公開・公式の記者会見を先に開催せよ、という立場である。
これら3社の立場が表明されたことに伴い、ネットメディアなどはこれを伝え、SNS上でも拡散された。それも影響したのか、10日朝に予定されていた総理番記者の2度目懇談会は見送りになったようだ。