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「東京五輪中止」の現実味をスルーする日本マスコミの病理

「五輪開催盛り上げ報道」に漂う異様感

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

国民の8割が開催に否定的なのに……

 他方、ごくわずかではあるが、「このままでは開催できないのではないか」という視点に立った取材記事が年明けからようやく現われてきた。そのいくつかを拾ってみよう。

 比較的ストレートな見出しで目立ったのは、朝日新聞の1月8日朝刊第2社会面の「東京五輪 開催危ぶむ声も『3月までに解除されなければ…』」である。コロナに関する緊急事態が再宣言された直後の朝刊。記事は社会面を見開いて状況を伝えていた。この記事はその1つで、見出しは3段。決して大きな扱いではないものの、紙の上では目につきやすい扱いでもあった。「ある大会関係者は『日々の暮らしに苦しむ人や医療従事者のことを想像すると、大会どころではない』と吐露する。組織委は当初、年明けから職員全員が原則出勤する計画だった」などと記されている。

 東京新聞は1月13日の「こちら特報部」で見開き紙面を使って大展開した。主見出しは「東京五輪『やれる』根拠はあるのか」。そのほかにも「世論は『中止・再延期』8割」「それでも…組織委・首相・与党『必ずやる』」「対策アイデアも効果は?」といった見出しが並んだ。筆者の見るところ、独自取材に基づいて開催に疑問を投げかける記事としては、今までのところ、この記事が一番大きい。

 読売新聞は1月9日のスポーツ面に「五輪へ強化ピンチ」「合宿縮小や中止 NTC利用制限」という記事を載せた。緊急事態の再宣言に伴う各競技団体の動向などを伝える内容で、日本ソフトボール協会幹部の「五輪メンバー15人を決める最終選考の場だが、どうするか近日中に決めなくてはいけない。対応に四苦八苦している」というコメントも紹介されている。4段見出しの大きな扱い。アスリートたちの苦悩が伝わる記事であり、普通に読めば、もう開催は無理だろうと思える内容だ。

 ただし、目立った記事はこの程度しかない。この他には、過去の大会で4個の金メダルを格闘した英国の元ボート選手が延期したほうがいいと発言したことを伝える記事、国際オリンピック委員会の最古参委員のディック・パウンド氏(カナダ)が「私は(東京での開催に)確信が持てない。誰も語りたがらないがウイルスの急増は進行中だ」との見解を表明したという記事などが通信社の外電として流れた程度である。

 もちろん、社説でこの問題を真正面から取り上げたものはない。本来なら世論調査によって8割もの国民が開催に否定的な見方を示していることが分かった段階で、即座にこうした肉声を集め、分析し、それに関する政府や組織委、東京都などの姿勢に疑問をぶつけていく記事があってしかるべきだろう。


筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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