渋谷淳(しぶや・じゅん) スポーツライター
1971年、東京都出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、新聞社勤務を経て独立。ボクシング、柔道、レスリング、ラグビー、バスケットボールなどを取材。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」の編集も。著書に『慶応ラグビー 魂の復活』(講談社)
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
格闘技の“神童”と称されるキックボクサー、那須川天心が2022年3月でキックボクシングを引退し、ボクシングに転向すると表明した。ボクシングと他のプロ格闘技といえば、両者の関係は長きにわたり「水と油」であり、近い距離にあるとは決して言えなかった。
そんな歴史に那須川のボクシング転向が一石を投じるのではいか、という見方が出ている。希代のキックボクサーが活躍の場をボクシングに移すことで、ボクシング界に変化は起きるのだろうか──。
那須川のボクシング転向にあたり、ファンの中には「キックボクシングをやめないで、キックボクシングとボクシングの両方をやればいいじゃないか」と思う人が少なからずいるのではないか。これができないのは国内のプロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)ルール第2章第12条「他のスポーツライセンスとの兼用禁止」があるからだ。
このルールがなぜ存在するのかといえば、簡単に言うと「ボクシングを守るため」ということになる。ボクシングは安全管理などのルールが厳しく、コミッションが存在してライセンスや試合運営の管理を一元化して行っている。コミッションもライセンスもなく、ややもするとエンタテインメント色を強く押し出すのが他のプロ格闘技だ。そうした格闘技と我々は違う。多くのボクシング関係者はそんな誇りをもってきた。
一方で「我々は違う」という態度が、外に対して「ボクシング界は頭が硬い」とか「門戸を閉ざしている」というマイナスの印象を与え続けてきたのも事実だろう。
ところが最近では「他の格闘技界ともっと交流したほうがいいのではないか」という意見が、多数派とはいえないまでも増えてきている印象だ。彼らがそう考える根底には「このままでボクシングは大丈夫なのか?」という危機感が潜んでいる。
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