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コロナワクチン接種が進む米中の今~海外で活動する日本人の目

「暗黒期に終止符」「経済活動に必須」 ゲームチェンジャーとなったワクチン

浦上早苗 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者

日中で会社経営、1年の半分はホテル隔離

 三宅さんにワクチン接種を勧めたのは、日中両国で食品メーカーを経営する松井健一さん(57)だ。日本でマスク不足が深刻だった昨年4月には、日本企業や自治体から相談を受け、中国のマスク製造工場と提携して医療マスクを日本に輸出した。

 中国人の妻と小学生の子どもは大連在住、松井さんは日本にある会社も見なければいけないため、コロナ禍でも日中を何度も往復し、そのたびに知らないホテルに隔離された。この1年の半分はホテルでの隔離生活を余儀なくされたが、「飲み歩かない分健康になり、体重が10キロ落ちた。『失われた一年』と引き換えに、寿命が2年くらい延びたかもしれない。自分がいなくても会社が回ることも確認した」と前向きだ。

拡大3月に中国でワクチンを接種した松井健一さん(松井さん提供)

 松井さんは妻と一緒にシノファームのワクチンを3月1日に接種した。1月からワクチン接種が始まり、報道では接種が順調に進んでいるかに見える中国だが、実際には様子見の中国人が少なくない。三宅さんは大連の保健当局から会社単位で接種を受けるよう指示されたが、社員が「まだ早い」と辞退し、1人で会場に行く羽目になった。松井さんも約400人いる中国人社員の不安を払拭するために、自身と妻が率先して申し込んだという。

 「中国はこの1年、感染をほぼ抑え込んでいる。少し前に南部の広州市で変異型ウイルスのクラスターが発生したが、それもすぐに落ち着いた。感染リスクが非常に低いから、『今打る必要はない』と思っている人も多い。ワクチン接種者に粗品として玉子を配っている地域もあるほどです」(松井さん)

変異型警戒と五輪への対応で入国規制強める中国

 松井さんと三宅さんが中国で早めにワクチンを接種したのは、「ワクチンパスポート」導入に備えてのことだ。中国はコロナ禍で「健康コード」を開発し、公共交通機関乗車や施設の立ち入りに、提示を求めるようになった。海外から入国した人は、健康コードのQRコードが赤色になり、数回のPCR検査や隔離を経て緑色に変わると、ようやく自由な行動を許される。「監視」アプリが既に普及しているので、ワクチンの接種記録と連動し、入国を禁止したり、あるいは接種者の隔離を免除する措置も、他国に先駆けて行う可能性がある。

 松井さんは3月に中国で接種した後、4~5月は日本で過ごし、6月に再び中国入りした。「今度は隔離されずに済むのでは」と期待を抱いていたが、期待が外れるどころか、中国の入国規制はさらに厳しくなっており、面食らったという。

 「大連はホテル隔離が3週間に延び、その後は1週間の自宅隔離。自宅隔離中はドアを外から封鎖され、本当に外出できない。ホテル隔離は1泊600元(約1万円)かかるし、負担はかなり大きい」

 松井さんは中国が感染対策を緩めないのは、三つの理由があると考える。一つ目は変異型への警戒で、二つ目は地方政府の「忖度」だ。

 昨年1月、武漢でパンデミックが起きたのは、感染拡大初期に地元政府が情報を隠蔽し、対処が遅れたことも大きく関係している。メンツを潰された中国政府は、地方政府の対応がぬるいと判断すると、幹部を片っ端から更迭するようになった。

 「処分を恐れる各層の責任者が、どんどんルールを厳しくしている」と松井さん。ワクチン接種も今は任意だが、接種者に返礼品を渡す地域も出始め、いずれ強制になっていくのではないかと見る。

 三つ目の理由はオリンピック。

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筆者

浦上早苗

浦上早苗(うらがみ・さなえ) 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師の職に就き6年滞在。新聞社退職した時点でメディアとは縁が切れたつもりで、2016年の帰国後は東京五輪ボランティア目指し、通訳案内士と日本語教師の資格取得をしましたが、色々あって再びメディアの世界にてゆらゆらと漂っています。市原悦子演じる家政婦のように、他人以上身内未満の位置から事象を眺めるのが趣味。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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