佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官
1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
東京の政治エリートと沖縄人の認識の乖離が、かつてなく拡大している。この原因を解明するためには、2つの時間概念を区別しなくてはならない。
古典ギリシア語で時間を表す表現にクロノス(khronos)とカイロス(kairos)がある。クロノスは、日々刻々と流れていく時間だ。年表や時系列表を英語でクロノロジーというが、これはクロノス的な時間だ。これに対して、カイロスは、ある出来事が起きる前と後で、質的な転換が起きるような時間だ。英語では、タイミングと訳されることが多い。
1952年4月28日にサンフランシスコ平和条約(1951年9月8日に米国サンフランシスコで署名)が発効し、日本が国際法的に主権を回復した出来事は確かにカイロスだ。しかし同時にこの日に、同条約3条に基づいて沖縄、奄美、小笠原は、米国の施政権下に組み入れられた。
沖縄人にとって「日本の中央政府が沖縄を切り離した日」という意味で4月28日は、カイロスなのである。「主権回復の日」を中央政府が、このタイミングで式典としたことを、沖縄人の大多数は、日本全体のために沖縄を切り捨てることを是認するシグナルと受け止めている。
もっとも、条約を解釈する専門家集団である外務官僚には、4月28日というカイロスが沖縄人にとって持つ、悲しみ、苛立ち、屈辱感が、わからない。
筆者は、母が久米島出身で
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