メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

相模原障碍者大虐殺事件 劇団態変の闘い(前編)

役者は障碍者のみ。世界各地で革命的な公演を続ける劇団が相模原事件を題材に

岩城あすか 箕面市立多文化交流センター 館長

相模原事件を題材に満身創痍で生み出された「ニライカナイ」

拡大劇団態変の舞台「ニライカナイ」より=2017年3月、大阪梅田、中山和弘撮影
 劇団態変の役者は全員、脳性まひや手足の欠損など重度の障碍者である(健常者は黒子として役者の移動を手助けするのみ)。重度の身体障碍者だけで構成される劇団は世界で唯一であろう。

 3歳でポリオに罹患し、重度の身体障碍者となった金満里さんが主宰して1983年に大阪を拠点に旗揚げした。身体障碍者にしかできない身体表現を追究するパフォーマンスグループで、これまでドイツやイギリス、ケニア、韓国など海外を含めて20カ所以上で公演。「革命がおこった」と高く評価されてきた。

 劇団態変の公演は毎回新たな驚きと発見があり、前人未踏の舞台をつくり続けられる原動力と、一人一人の表現の豊かさに圧倒される。セリフはなく、抽象的なシーンも多いので、「あれは何を意味しているのか?」と、1週間くらいは気になって仕方がなくなったりもする。

 普段、わたしたちは「よりわかりやすい説明」を当たり前のように受けているため、「よくわからない」状況に直面すると、不安になったり、少なからず混乱したりする。しかし、公演を観賞した後は、戸惑いをおぼえる自身の心の奥底から、何ともいえない、「生きる気力」がふつふつと湧いてくる。この感覚はうまく言語化できないので、ぜひ生の舞台を観てほしい。

 劇団態変の最新作「ニライカナイ」は、相模原での事件を受けて、満里さんが満身創痍で生み出した作品だ(初演の舞台映像から編集したPVはこちら。2018年11月2日~4日は東京の「座・高円寺1」で再演がある)。

 ニライカナイは、海を隔ててあるこちらと向こうの間に、まだ見ぬ桃源郷を求める言葉のように捉えられることが多い。しかし実際は、ニライカナイの精神性には、来る者拒まず(拒めず)去る者追わず(追えず)という、どこに行っても海が眼下にあって何処へも逃げれない立場性への醒めた感覚の裏返し、のように思う。だから、命の価値を、排他的に選別せず全てを包括してしまおうとする、包容力と夢が、このニライカナイという言葉の響きにあると私は思う。
 沖縄のニライカナイは、来る者拒まず(拒めず)去る者追わず(追えず)、ということ。それは否定形と肯定形の混合の現実感性だ。そこには私自身が、重度の障碍者として持っている、介護者との関係性と同じものでもあるのは明白だ。その現実感に重ね過ぎかもしれない。しかし、実際に昨年に起こった、相模原施設障碍者19名大虐殺事件、を思い起こしても、外から来た者に障碍者たちは抗えず、いきなり刃物で斬り付けられ殺傷される、といった許せない事件。そこへ思い至る。
 来訪者が振るう、無抵抗な者への、圧倒的暴力に只々やられるしかないのか! 明と暗、を見据え、それでも命の価値を誰が決める権利があるのか、という正当な怒りを覚える。だから、ニライカナイの精神は、生命と死、という深いものを抱え持ち私たちの街へやって来る。
 分けられる側ではなく、その意味をひっくり返してしまう! そう、そんな舞台でなければ態変は始まらない。(2017年1月12日発行の公演案内より、金満里さんのメッセージを一部抜粋)

 私は2017年春、大阪公演での初演を観た。満里さんが障碍者施設で過ごした幼少期に出会った、自らを「アボタカ」と呼ぶ寝たきりの女性。職員たちに放置され、ついには床ずれに蛆がわくほどだったが、突如として姿を消す。細くて折れそうな足には「∀」の形の矯正具が付けられていた。彼女の脚は「絶望のどん底の恐ろしさ」の象徴だった。

 劇団態変のメンバーは思い思いにアボタカの脚を抱え、施設から抜け出し、命溢れる太古の森(沖縄の西表島をイメージしている)へと、魂の自由を求めて脱走する。

拡大アボタカの脚と、ニライカナイの森=photo by bozzo

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

岩城あすか

岩城あすか(いわき・あすか) 箕面市立多文化交流センター 館長

大阪外国語大学でトルコ語を学んだ後、トルコ共和国イスタンブール大学(院)で学ぶため、1997年~2001年イスタンブールで過ごす。通訳やマスコミのコーディネーターをしながら、1999年におきた「トルコ北西部地震」の復興支援事業にもボランティアとして関わる。現在は(公財)箕面市国際交流協会で地域の国際化を促す様々な事業に取り組むほか、重度の障碍者のみで構成される劇団「態変」の発行する情報誌「イマージュ」の編集にも携わっている。

岩城あすかの記事

もっと見る