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北方領土交渉 長期化は日本をどんどん不利にする

「すべて非公開」はロシアから国論不統一を突かれる。国民に説明し、未来志向で解決を

登 誠一郎 日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長 元内閣外政審議室長

交渉を決着させるカギは何か(法と正義の原則の限界)

 エリツィンはソ連崩壊以前より、北方領土問題の解決原則として「法と正義」を唱えており、大統領就任後に訪日した1993年の東京宣言においても、両国の合意事項としてこの原則が掲げられている。これは確かに重要な原則である。

 しかしこの原則だけでは、問題の解決を見出せない。解決のカギは、そのもたらす政治的メリットであり、それを国民が納得するか否かという政治的判断である。

 日本側は、4島が日本固有の領土であることは1855年の日露和親条約以来の多数の法的文書で確立していると議論するのに対して、ロシア側は、4島は第二次世界大戦の結果ソ連(ロシア)領となったことはヤルタ協定、及び国連憲章(第107条)によって保障されていると反論している。外交交渉には第三者的審判はいないので、これでは結論は出ない。

 では日ロそれぞれで、自国民を説得でき得る解決内容は何であろうか。

 まずロシアについては、国後・択捉の東アジアにおける戦略的重要性はますます大きくなっているので、これを日本に引き渡すことに合意するには、それに見合う戦略的価値のある対価が必要であろう。平和条約締結による日ロの友好増進という抽象的のものではまったく不十分である。

 最近のロシアの言動を見ると、在日米軍基地の機能を縮小させ、日米安保体制を弱体させることが戦略的に重要と判断していると思われる。しかし、北方領土の見返りとして日米安保を弱体化させることを支持する日本人はいないであろうから、日本がそういう提案をすることはあり得ず、したがってロシアがこの両島の返還に同意することは到底無理と言わざるを得ない。

 歯舞、色丹については戦略的価値はそれほど大きくないので、経済協力の促進や日本の対ロ信頼の増進というような対価でロシア国民の納得を得ることは可能であろう。

拡大北海道・根室半島上空からのぞむ色丹島(奥)。手前は歯舞群島の多楽島(たらくとう)=2018年12月11日

 他方、日本として、国後、択捉の日本帰属は法的証拠も十分であり、正義であることを認識した上で、平和条約において両島のロシア帰属を認めることは全く不可能なことであろうか。

 この解答を得るためには以下の諸事実を勘案する必要がある。

①サンフランシスコ平和条約の国会審議において、日本政府は、条約で放棄した「千島列島」に国後、択捉は含まれると答弁していた。

②戦争の結果領土を失うという例は、日ソ(日ロ)間においても、日本が一度も領有したことのなかった南樺太が、日露戦争の結果、ポーツマス条約により日本領となり、これはサンフランシスコ平和条約で日本が放棄するまで40年以上継続した例がある。

③国後、択捉の日本への引き渡しを支持する国際世論も皆無であり、ロシアがそれに同意する可能性も見渡し得る将来にわたってゼロである。

④国際司法裁判所に本件を付託する選択肢も、国連憲章第107条(第2次大戦中に戦勝国が戦争の結果として取った措置は認められるとの趣旨)がある限り、法的には100%日本が勝利できる保証はない。

⑤もし日本として、両島の主権を取り戻すというオプションを放棄しても、共同経済活動の推進、旧島民特区の設立、日本語の普及、すべての国民のビザなし訪問の許可、北海道との航路、空路の開設などを実現できれば、旧島民のみならず、すべての国民が両島を身近なものとして享有できるようなる。

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筆者

登 誠一郎

登 誠一郎(のぼる・せいいちろう) 日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長 元内閣外政審議室長

兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、外務省入省(1965)、駐米公使(1990)、ロサンジェルス総領事(1994)、外務省中近東アフリカ局長(1996)、内閣外政審議室長(1998)、ジュネーブ軍縮大使(2000)、OECD大使(2002)を歴任後、2005年に退官。以後、インバウンド分野にて活動。日本政府観光局理事を経て、現在、日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長、安保政策研究会理事。外交問題および観光分野に関して、朝日新聞「私の視点」、毎日新聞「発言」その他複数のメディアに掲載された論評多数。

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