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小沢一郎と鳩山由紀夫、それぞれの「辺野古」

(10)小沢一郎、普天間移設問題のポイント・米軍再編の要点を捉えていた

佐藤章 ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

「辺野古」を蒸し返した小沢一郎

 2010年9月14日の民主党代表選は、このような「経団連返り」の菅に対して、国民が政権選択をした初心を訴える小沢が挑戦する最後の機会だった。

 代表選は、東京・芝公園にあるザ・プリンスパークタワー東京で行われた。参院選で惨敗し過半数を割ったとはいえ、衆参411人の議員数はやはり圧倒的だった。議員の後ろに設けられた記者席からは菅、小沢の姿が小さく見えた。

 菅は、いわゆる「二世議員」が比較的少ない民主党の長所を挙げ、自身がその代表に当たる点を訴えたが、参院選直前に消費税増税を打ち出した残念な政治観を見せられた後ではかなり色褪せた文句に聞こえた。

 私は明確に記憶しているが、一方の小沢は朴訥な調子で米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を取り上げた。首相だった鳩山が当初「国外、最低でも県外(移設)」と打ち出しながら結局は辺野古に持って来ざるをえないと結論を出した後だけに、一般的には「辺野古で決まりか」と思われていた。

 しかし、その空気の中で小沢は再度、辺野古問題を取り上げ、「まだ話し合いの余地はある」と訴えた。

 「日本政府は、まだ米国と本当には話し合っていない。だから、米国とはまだ話し合いの余地はある。沖縄県ともまだまだ十分に話し合っていかなければいけない」

 私は朴訥に訴え続ける小沢の声がいまだに耳に残っている。そして、短い言葉ながらも問題の本質を突いた本物の「政治の声」だと直感した。小沢に首相を任せれば、本当に普天間問題は解決の糸口が見えてくるかもしれない。そんな考えに支配された。

 代表選の結果は、議員票が僅差で菅の勝利、地方票が意外にも大差で菅勝利に終わった。私はこの代表選に合わせて、その時所属していた「AERA」に記事を執筆すべく、小沢と普天間・辺野古問題に焦点を絞って取材を進めていた。首相の菅はこの問題については実質的に匙を投げており、解決の道を探るには小沢が首相になるしかなかった。

拡大那覇市内のアーケード街を練り歩く民主党の小沢一郎代表(右)、鳩山由紀夫幹事長(中央)、菅直人代表代行(左)=2007年4月15日

「沖縄の米海兵隊は日本防衛の任務を担ってはいない」

 代表選のほぼ1週間前の9月8日、東京・永田町の衆院第2議員会館の大会議室で小沢の記者会見が開かれた。

 「海兵隊をはじめ実戦部隊を前線にはりつけておく必要はない、ということが米軍再編の戦略です。最終的には日米合意になったが、話し合いの余地はある。沖縄の県民のみなさんが理解しないとできない。強制執行などできないわけです」

 会見で述べたこの言葉が、小沢の考えを要約している。

 私はまず、元外務官僚で普天間・辺野古問題に詳しい佐藤優に話を聞きに行った。佐藤は、外交・民族問題、宗教問題などに該博な知識を持っているが、母親が沖縄県久米島出身のためもあって、沖縄問題については実に的確かつ深い指摘をしていた。

 「小沢さんは正しいですよ。結論から言えば、県外移設は可能です」

 佐藤は私を事務所に迎え入れるなり単刀直入にこう断言した。

 佐藤によると、米軍の実態を知る外務官僚たちの本音は「県外移設は可能」ということだった。佐藤がまず指摘したのは、沖縄にいる米海兵隊は米国本土や中東、東南アジア、オーストラリアを次々に移転するローテーション部隊だという事実だった。

 今年3月31日付の朝日新聞は1面トップで、沖縄に駐留する米海兵隊の中核を担う「第31海兵遠征部隊」(31MEU)の実態を報道した。部隊の動向を記録したコマンドクロノロジー(部隊年報)の情報公開を米海兵隊に求めていたが、1992年の配備から2017年までの年報や関連資料など約3600ページが開示された。

 それによると、ほとんどの年で100日以上沖縄を離れて日本国外に出ていた。2009年の年報を見ると、1月沖縄、2月タイ、沖縄、4~5月フィリピン、沖縄、7月オーストラリア、沖縄、10月フィリピン・インドネシア、11月沖縄、というローテーションで、この年は少なくとも約160日海外で訓練などをしていた。しかも歩兵を中心に半年ごとに交代するため、主に米国本土から隊員が来るたびに訓練を繰り返している。

 つまり、沖縄駐留の米海兵隊は必ずしも日本防衛の任務を担ってはいない。佐藤とは別だが、米軍の任務に詳しい自衛隊関係者はこう解説した。

 「これを言うとみんなびっくりするんだけれども、海兵隊のミッションは2つなんです。日本に限らないが、まずひとつは、その国におけるアメリカの要人の保護救出。これはファースト・プライオリティ。そのリストの一番目は駐日アメリカ大使です。だけど、これはたびたび問題になるんだけど、その大使の配偶者というのは番号が低いらしい」

 これはむしろ想定内で、それほど「びっくり」するような話ではないが、本当に驚くのは二つ目の任務だろう。

 「そして、第2のミッションというのは、当地におけるアメリカ政府に対する敵対的政権が誕生した時、その政権を力によって排除する部隊が海兵隊なんです。以上です。はっきり言って他のミッションはないです。オスプレイの飛行ルートを記録しているジャーナリストがいるかどうかわからないが、オスプレイは市街地上空を飛んでいる。なぜか。まさしく飛行訓練です。何かあった時に日本を再占領するための訓練なんです」

 にわかには信じがたい任務ではあるが、米軍と日米地位協定の問題が集約された沖縄の歴史と現状を見ると、その話は異様な現実感を持って迫ってくる。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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