大野博人(おおの・ひろひと) 元新聞記者
朝日新聞でパリ、ロンドンの特派員、論説主幹、編集委員などを務め、コラム「日曜に想う」を担当。2020年春に退社。長野県に移住し家事をもっぱらとする生活。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
冷戦終結30年、エマニュエル・トッド氏に聞く
――しかし、30年前を振り返るとドイツの再統一を押しとどめるのは無理だったのでは?
当時は考えにくかった。私も間違えていた。しかし今は、ドイツの統一は必然だっただろうかと思います。
――当時の東ドイツの現場で取材をしていて、人々の統一への渇望を抑えるのは無理だと感じましたが。
ドイツ人はとても規律正しい。ドイツは統制のとれる国です。おそらく米国が「ノー」と言えば再統一はなかったはず。その場合、東ドイツは人々が西に行ってしまって大変なことになったかもしれない。でも新たな国となって別のストーリーが展開したのではないだろうか。米国が阻止するのは可能だったと思います。
――それはドイツ人たちに不自然を強いることにならないでしょうか。
欧州の歴史の大半で、ドイツは分断されていました。ドイツ文明にとってふつうの状態が分断だった。大国も二つできた。オーストリア帝国とプロシア。その他に20ほどの小国。そのうちプロシアの経済力が増して、統合していきました。ビスマルクによる三つの戦争でドイツは経済的な発展を続け、かつてなかったほどの大国になったために、それが第1次大戦、ナチスの登場、第2次大戦になって欧州の自壊を招いたのです。
今、欧州にやってこようとしているのは、大きな危機です。ユーロ圏は破滅的で、南欧州の国々は産業を失い、ドイツは東欧の国々に進出している。東欧の国々は人口動態の危機にある。英国は欧州から逃げ出そうとしている。
――前のように欧州がまた大きな動乱の舞台となる?
欧州ではもう戦争は考えられません。欧州人同士が戦争することは想像できない。争いごとはあっても戦争はしない。しかしそれに替わって経済競争が一種の戦争になりました。
今はどの国もほかの国と経済的には戦争をしているような状態ですが、ユーロ圏の中で激しい。似たもの同士の方が競争は激しくなるものです。さらに南欧諸国の産業の崩壊や南北欧州の不平等の高まり、ルーマニアやブルガリア、バルト3国、ウクライナの人口減少などを考え合わせると、これは第1次大戦と第2次大戦に続く欧州の第3の自壊が起きているのではないかとさえ思います。
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