メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

コロナ禍の今こそ知りたい顕微鏡の世界史/日本の栄光はいま…

次のパンデミックが発生すれば、日本は分析データを中国に依存することになりかねない

ゲーレ クリストフ 大阪大学蛋白質研究所 特任准教授

クライオ電子顕微鏡の登場

 ウイルスは、細菌より10倍以上小さな姿をしています。

 光学顕微鏡で観察するには小さすぎるのですが、原子レベルまで映像化できる電子顕微鏡であれば、はっきりと見ることができます。さらに現代的なクライオ(低温)電子顕微鏡を使えば、ウイルスやその他の生命体について、非常に詳細な3D画像を得ることができます。

 今日、最も広く知られたウイルスの画像は、あらゆるメディアに登場している「SARS-CoV-2」でしょう。日本では「新型コロナウイルス」と呼ばれていますが、「COVID-19」という世界的な感染症の原因となった、あのウイルスです。

拡大新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」=米国立アレルギー・感染症研究所提供

 生体分子を理解するということは、原子レベル(0.1nm=ナノメートル)で立体的構造を知ることに大きく依存しています。いわゆる原子モデルと呼ばれる3次元(3D)マップを用いて形状を把握するのですが、従来は、病院で使うX線より何倍も強いものを使った「X線結晶構造解析」によってのみ、詳細な3Dマップを得ることができていました。タンパク質、DNA、ウイルスなどの解析も該当します。

 実は、日本はこの技術で世界をリードしてきました。兵庫県で「スプリング8」と呼ばれる、最も先進的で強いX線を放つ施設を運用しています。私が勤める大阪大学蛋白質研究所でも、特にウイルスの3D構造を分析するためにX線を使うことがあります。

拡大大型放射光施設「スプリング8」(画面下)と、X線自由電子レーザー施設「SACLA」(画面右上)=2013年、兵庫県佐用町、朝日新聞社ヘリから

 しかし、この方法には欠点も存在します。ウイルスなどの試料を結晶化する必要があるのですが、作成は難しく、時間も要するのです。そのため、X線を使ったウイルス構造分析のパイオニアであるドイツ系アメリカ人微生物学者のマイケル・ロスマン氏(1930-2019)も、クライオ電子顕微鏡を用いてジカウイルスの原子マップを取得していました。

 クライオ電子顕微鏡の歴史はすでに40年以上になりますが、生体分子の撮影技術がさらに成熟し、薬の開発のためにも必要となるウイルスの詳細な3Dマップを短時間で得る能力を備えるようになったのは、わずか数年前でした。

 クライオ電子顕微鏡法の開発に貢献した3人の研究者が2017年にノーベル化学賞に選ばれたこともあり、さらに注目を集めています。敵を倒したいと望むなら、その敵をよく理解する必要がありますが、顕微鏡がそれを可能にするのです。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

ゲーレ クリストフ

ゲーレ クリストフ(Gerle Christoph) 大阪大学蛋白質研究所 特任准教授

1973年ドイツ・ミュンスター生まれ。ハノーファー大学理学部生物化学科、中国南京大学へ留学、英国ロンドン・インペリアル・カレッジにて修士論文研究、中国北京師範大学にて1年間語学留学後、上海現地企業にてインターンシップ。2006年、京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。京都大学生命科学系特定助教、兵庫県立大学理学部特任准教授などを経て、2017年より現職。専門は電子顕微鏡を用いた膜タンパク質の構造解析など。Email: gerle.christoph@protein.osaka-u.ac.jp