市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「振る舞い問題だが、後出しジャンケンはもっと卑怯」/制度の根本解決は遠く
大阪市泉佐野市がふるさと納税で高額の返礼品を続けたため、国が納税制度自体から外した問題で、泉佐野市が2020年6月30日、国に勝訴した。
泉佐野市が除外決定の取り消しを求めた訴訟の上告審で、最高裁第三小法廷が、市側が敗訴した大阪高裁判決を破棄した。今後、泉佐野市は納税対象自治体に復帰することになる。
大きなニュースとなったが、筆者にはむしろ、泉佐野市が負けた高裁判決の方が不可思議で、これで最高裁も負ければ日本の法治システムはおしまいだと思っていた。
逆転判決の理由は単純なものだった。「後出しジャンケン」という言葉が定着するほど、総務省の法を無視した「泉佐野市いじめ」が露骨だったからだ。
激しい返礼品競争のなか、2019年の法改正で国はふるさと納税に「国が対象自治体を指定する制度」を導入。返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」として、泉佐野が堂々とやっていた「3割以上の域外産品」を牽制。さらに告示で「2018年11月から半年間に趣旨をゆがめるような募集をしてこなかったかどうかも考慮する」と過去にさかのぼって審査対象にすると宣言した。この「告示」の妥当性が問われた。
この、過去の姿勢を問われて未来の資格を失った理不尽な経緯を見れば、国の行為は「刃向かうヤツは懲らしめる」という感情論にしか映らない。例えは極端だが、偶然同じ6月30日に始まった「あおり運転厳罰化」や「香港国家安全法」で、過去不問だった行為を新たな法律で罰するようなものだ。
大阪高裁判決は、「告示」の妥当性解釈以前に国の裁量権を全面的に認め、「制度の悪循環や弊害に照らせば、(国が新制度によって)付与された裁量権の行使に逸脱・乱用はない」と「懲らしめる側」の論理に立ったが、さすがに最高裁は双方の言い分を吟味した。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?