朝鮮戦争70年 日本の「戦争協力」④米国に追随する日本の姿勢は変えられず
2020年07月04日
朝鮮戦争が1950年6月25日に勃発して今年で70年。「連載・朝鮮戦争70年 日本の『戦争協力』」で、平和憲法ができて間がない日本における「戦争協力」の実態をみてきた。最終回の本稿では、朝鮮戦争時における国鉄の戦争協力(「朝鮮戦争と兵隊・武器・弾薬を輸送した旧国鉄の戦争協力」参照)に対する日本国内での抵抗運動について、在日の詩人として活躍する金時鐘(キム・シジョン)に焦点をあててたどってみたい。以下、2020年3月の筆者によるインタビューや時鐘の自伝、新聞記事などをもとにする。
時鐘は世界恐慌がはじまる1929(昭和4)年1月17日、現在の北朝鮮元山市に生まれた。小学校に入る前に祖父のもとから済州島に住む両親のもとに移住。当時は日本の植民地統治下で、学校では朝鮮語ではなく日本語で話すことが強要され、朝鮮語を使うと、教師の激しいビンタ(平手打ち)がまっていた。「天皇の赤子になれ」と教育された時鐘は、特攻隊員にさえ志願する「皇国少年」として育った。
父親は読書家で、多くの蔵書のなかには、革張りで金箔文字がうってある『トルストイ全集』があり、印象に残っているという。定職にはつかず、韓服をまとい毎日のように釣りに興じる人物だった。済州港の突堤で父の膝の上に座り、朝鮮語の歌詞で唄われる「いとしのクレメンタイン」(米国民謡)をよく聴かされた。
16歳のときに終戦を迎える。町中に「万歳(マンセー)、万歳」という叫びが響きわたるなか、「自分だけが何か場違いのような気がしてならなかった」。日本に同化していた自分が、朝鮮の人間であることを突きつけられた瞬間でもあった。
涙があふれた。済州島の海辺で繰り返し「海ゆかば」や「夕やけ小やけ」を口ずさんだ。そして、それからは必死で韓国語を覚えるようになった。
終戦まもないころ教師になるために学校に通ったが、すぐに学生運動に身を投じた。1946年も暮れかかったころ、朝鮮共産党を改編して生まれた南朝鮮労働党に入党。レポ(地下運動の秘密連絡員)要員として活動することになった。
「厳しい情勢下で前衛組織の一員になれたことが嬉しくて、叫びだしたくなるくらい感激でした。これで私は生まれかわれのだと、しんそこ思ったものです。国が奪われたときも、『解放』されて戻ってくるときも何ひとつ関わることのなかった自分が、今は確信をもって祖国の命運に関わっていけるのだと、自分の青春がようやく開かれてくる思いでいっぱいでした」(『朝鮮と日本に生きる-済州島から猪飼野へ-』)と述懐している。
当時、朝鮮半島は北緯38度線を境に米軍とソ連軍によって南北に分割占拠され、軍政が敷かれていた。南は親米の李承晩政権、北は金日成の北朝鮮労働党政権が地歩を固め、南北に分断されつつあった1948年、南朝鮮だけの単独選挙が決まり、それに反対する済州島の左派島民の民衆蜂起事件が起こった。
在朝鮮米陸軍司令部軍政下にあった警察や軍と激しく衝突。4月3日に発生したことから「4・3事件」と呼ばれる凄惨な事件に発展し、政府軍や警察によって少なくとも3万数千人の島民が犠牲となった。南朝鮮労働党の予備党員であった時鐘も指名手配された。
捕まれば殺害されるかもしれない厳しい逃亡生活を送り、1949年初夏、両親が大枚をはたき日本に脱出するための「闇船」といわれる漁船を手配してくれた。船に乗る前、母が用意した弁当箱や水の入った竹筒、着替え、50銭紙幣などを父から受け取った。父は「これは最後の、最後の頼みでもある。たとえ死んでも、ワシの目の届くところでだけは死んでくれるな。お母さんも同じ思いだ」と語りかけた。その後、両親に二度と会うことができず、今生の別れの父の言葉となった。
数日後、船は松が茂る兵庫県の海岸に着いた。のちに松林の様子から、神戸の舞子の海岸あたりと分かった。
同胞が多く住む大阪市生野区の猪飼野に向かった。猪飼野で出会った見ず知らずの同胞に、長屋のローソク工場を紹介してもらい、住み込みの工員になった。工場といっても二坪ほどの裏庭を三和土(たたき)にした仕事場で、簡単な機械でローソクを製造した。当時は停電も多く、路地の長屋の多くがローソクの仕事をしていた。
工場の廃業にともない、貧しい人たちが住む共同便所近くの「鶏舎長屋(タクトナリ)」と呼ばれる板間ひと間の同居人になり、石鹸工場の雑用係もした。在日朝鮮人のどん底の集落での苦しい生活だったが、地下活動をしていた済州島とは違い、生命の危険のない猪飼野での暮らしは、「それだけで困窮に耐えうるだけの有難さがありました。またそれだけに自分ひとり逃げを打ったという後ろめたさも、日を追ってつのってきていました」(『朝鮮と日本に生きる』)。
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