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『独裁と孤立 トランプのアメリカ・ファースト』

アメリカ大統領選が象徴する「一極体制」の終わり

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

国際主義と孤立主義の相克

 米外交は、孤立主義と国際主義という二つの潮流が激しくぶつかり合うことで形成されてきた。

 1776年に悲願の独立を果たした初代大統領ワシントンら建国の父たちは、欧州諸国の争いに巻き込まれることなく、新国家・米国の国力増強を図ろうと考えた。太平洋と大西洋に囲まれた米国大陸には豊かな資源があり、孤立主義的な外交路線が適していたのである。

 それを明確に示したのが、モンロー大統領による1823年の「モンロー宣言」である。米国は欧州諸国の国内政治に干渉しない代わりに、欧州諸国は西半球に干渉するべきではないと表明したのである。

 この米国の孤立主義が完全に破られたのが、国際主義派のウィルソン大統領のもとでの1917年の第1次世界大戦への参戦である。

 しかし、米軍兵士に11万人を超える犠牲者が出て、米国では1930年代、孤立主義の風潮が強まった。その後、フランクリン・D・ルーズベルト大統領のもとで、1941年の真珠湾攻撃をきっかけに第2次世界大戦に参戦。米国は再び国際主義路線へと舵を切り、ルーズベルトの後を引き継いだトルーマン大統領のもとで米国主導のリベラルな国際秩序づくりが進められていくことになった。

 東西冷戦終結後、米国内では孤立主義への回帰を模索する動きも一部ではみられたが、米国が選んだのは、ライバルのソ連が崩壊した後、唯一の超大国として世界のリーダーであり続けるという「一極体制」だった。

 1990年にイラクがクウェートに侵攻すると、米国は多国籍軍をまとめ上げて湾岸戦争を戦った。2001年の同時多発テロが起きると、アフガニスタン戦争やイラク戦争など一連の対テロ戦争に踏み切り、米国の「自由と民主主義」の理念を世界各国に広めるという過剰なまでの国際的なリーダーシップを発揮しようとした。

 しかし、その代償は大きかった。

 イラク戦争は2011年12月に正式に終結宣言が出されたが、2001年から始まったアフガニスタン戦争は2020年2月、米国と反政府勢力タリバーンとの間でアフガニスタンの駐留米軍を段階的に撤退させることで合意した。

 しかし、これは、ベトナム戦争を超える「史上最長」の戦争となった。米軍兵士の死者数は7014人にのぼり、米国政府は海外での軍事作戦などに計6.4兆ドルを支出した。米国社会は20年近く続いている一連の戦争で人的・経済的に大きな犠牲を払って疲弊し、米国がリーダーシップを発揮して国際紛争の解決に積極的に関与していくという国際主義派の考え方に懐疑的になっていった。

 トランプ氏が大統領選に当選した2016年に行われた世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、「米国は自国の問題に対処するべきであり、他国の問題は他国自身に任せるべきだ」と答えた人は57%にのぼり、「他国を助けるべきだ」と答えた人は37%にとどまった。

 こうした民意が、トランプ大統領を誕生させたる原動力となったのだ。

拡大共和党全国大会で大統領候補者の正式指名を受けて演説するトランプ氏=2016年7月21日、オハイオ州クリーブランド、ランハム裕子撮影

 今年11月の米大統領選は、今後の国際社会の命運をも左右する。

 トランプ氏が再選することで、米国はアメリカ・ファーストをさらに推し進め、新たな孤立主義の道を突き詰めていくのか。それとも民主党候補のバイデン前副大統領が勝利することで、米国は国際協調路線へ復帰するのか。

 バイデン氏は国際機関や同盟国との関係を重視している。大統領就任後、トランプ氏が離脱したWHOを始め、パリ協定やイラン核合意に復帰する考えを示している。

 ただし、バイデン氏が大統領に選ばれたからといって、米国が再びかつてのような過剰ともいえる強力な国際的リーダーシップを取り戻すことはもはやない。米国民は、「米国大統領は『外交』よりも『内政』に集中するべきだ」という考えを強めているからだ。

 バイデン氏もこの米国民の民意を背負う立場にある。選挙公約では、アフガニスタンからの米軍撤退についてトランプ氏と同様に賛成の立場を取っており、1期目の任期中に戦闘部隊を撤退させ、対テロ作戦の部隊だけを現地に残す考えを示している。米国の武力行使のあり方についても抑制的な考え方を示し、米国が武力行使する場合は「目標が明確かつ達成可能であり、米国民に十分に説明され、必要な議会の同意が得られているときに限る」と強調している。

 また、経済政策では、米国内の産業保護に力を入れる方針だ。仮にバイデン氏が大統領に選ばれれば、同氏の掲げる国際協調路線のもと、米国は自国の内政問題により集中できるように、これまで負担してきた超大国としての責任を各国で分かち合うように求めていく傾向がさらに強まることが予想される。

 米国はいま、9.11をきっかけに膨張し続けた国際的な役割を縮小し、自国利益をより重視する長期的な傾向に入っている。トランプ、バイデン両氏のどちらが次の大統領に選ばれようとも、米国の「一極体制」という時代は終わりを迎えつつあるのだ。

 今回の米大統領選は、歴史の大きな流れの中において、それを象徴する選挙として人々に記憶されることになるだろう。

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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