2020年12月03日
安倍晋三前首相の公設第一秘書らが「桜を見る会」の前夜祭問題で東京地方検察庁特捜部から事情聴取を受けた。これまでの報道や私自身に入ってきた情報を総合すると、安倍事務所のやったことは政治資金規正法や公職選挙法違反に該当する疑いが強い。
「安倍一強」時代の自民党内にあって反安倍のスタンスを明確にしてきた石破茂の政治的歴史的意味が格段に重くなった。党内の暗闘に敗れて現在雌伏中の身だが、私のインタビューに基づく過去二回の記事(『石破茂はどこで間違えたのか~自民党総裁選「惨敗総括」(上)』『石破茂はこれからどう生きるのか~自民党総裁選「惨敗総括」(中)』)でも明らかになった通り、正論を貫く姿勢には揺らぎがない。
その石破は、今回のインタビューでは、自民党外の勢力とも積極的に話し合いたいという姿勢を明確にした。立憲民主党の中村喜四郎や小沢一郎にも、シンパシーや政治的な高評価を口にした。
――菅政権に対する評価についてお聞きしたいと思います。今携帯の料金がどうのこうのとかハンコがどうのこうのと各論を言っても仕方ないので、最もクリティカルな論点を聞きます。
まず、私は日本学術会議について、6人の会員任命を拒否したことは明らかな違法行為だと思います。その重要な問題がひとつあります。
もうひとつは、日本学術会議の姿勢について、例えばデュアルユース(軍民共用)の技術の研究に関してはもっと柔軟になるべきだという議論があります。菅首相が学術会議に対して照準を合わせている大きな狙いはそこにあると思います。
ただ、菅首相のやり方は最初に言いがかりをつけておいて、それをきっかけにして狙った方に持っていこうとする、簡単に言えば脅しのようなやり方です。これは政治のやり方としてよくない。
石破さんはデュアルユースに関しては認めるべきだとする意見を持っていると思いますが、石破さんであれば、このような脅しの手法は採らないでしょう。であれば、石破さんから見て、菅政権に対する評価はマイナスなんじゃないですか。
石破 いま、スタートしたばかりの菅政権を評価するのは尚早でしょう。政治のスタイルは違えど、同じ自民党所属であり、多くの議員の支持を受けて成立した内閣で、国民の支持率も高いのですから。
黒川東京高検検事長の定年延長問題の時にあれだけ動いた世論が、今度の学術会議問題ではそれほど大きく動かない。それはやはり、国民生活にとって喫緊の課題ではないし身近な問題でもない、ということだと思います。
私は今でも、森友問題、加計問題、「桜を見る会」について国民にとって納得のできる説明がなされたとは思っていません。しかし今般の学術会議の問題は、それらとは少し性質が違うものでしょう。政権側の説明が足りないという意味では同じかもしれませんが、戦後連綿と続いてきた政権与党と学術会議との論争という背景があります。
しかし、国民の感覚がだんだん麻痺してきた、そんな印象は受けます。いろんなことに反応しなくなってきている。「これがそんな大変な問題なの」って思っている。実は、菅政権がどうのこうのという問題ではなくて、国民の感受性が鈍くなってきたことの方がよっぽど怖いと私は思っているんです。
――どうなんでしょうか。各種世論調査によれば、菅首相の説明では納得できないという数字の方が大きいですね。
石破 確かにそうですが、一方で6人(の任命拒否)を変える必要はない、という数字も大きいんですよ。
――それは、国民の鈍化ということはあるかもしれませんが、それを引き起こした政治の側の劣化ということの方が激しいのではないですか。石破さんが批判してきた安倍政権の7年8か月のうちに、森友、加計、「桜を見る会」と次々に不祥事、疑惑が起きてきて、前の不祥事、疑惑を忘れてしまうほど次の不祥事、疑惑によって記憶が書き換えられてしまう。そんな政治の劣化状態でした。
この劣化した状態の安倍政治を全面的に引き継ぐという菅政権が厳然とあるわけです。そして、劣化した安倍政権の中核にいたのはまぎれもなく菅さんですよ。
石破 それは官房長官ですからね。
――立場上そうですし、実質的にもそうですよね。とすれば、石破さんとすれば、「対安倍」以上に「対菅」とならなければおかしいじゃないですか。
石破 私は、第二次安倍政権が誕生して2年弱は幹事長を拝命し、その後の2年間は地方創生担当の国務大臣でした。でも、後半は党幹部でも閣僚でもなかったので、今おっしゃったように、「実は菅さんが中核にいた」と言われても、私には確証はないんですね。確証がないことについては論評はできない。
――どうでしょうか。これからも石破さんは、石破さんが信じる正論を言い続けようと考えていらっしゃるわけですか。
石破 それを言えなくなるんだったら私はこの仕事を辞めようと思います。この世の中、おもしろい仕事はいっぱいあるでしょうし。もっとも63歳になりましたから、そんなに仕事があるわけじゃないかもしれませんが。
自分を国会議員として選んでくれる選挙区がある以上、自分の信じる志なくして選挙区に負担は負わせられないですよ。自分のためだけに国会議員を続ける意味はありません。
次の総選挙について、私が言っているのは、「次は自民党の票だけでは危ないよ」ということです。重要なのは無党派にどう呼びかけるかで、無党派が自民党ではない方に動いたら、我々は大変なことになります。今まで、自民党の候補者であればそれだけで選ばれた、そういう環境にあった人がいるなら、本当にリスクは大きい、と思います。
――それは、言い換えれば無党派層に対する戦略ですよね。しかし、自民党に限らず、無党派層への与野党の戦略は見えないんですよね。
石破 そうかもしれませんね。私は自由民主党所属議員ですから、自民党の政権が続くように努力します。自民党はこうあるべきだと総裁選で訴えたことをこれからも言い続けるし、それでも話に来てくれという候補者がいれば、応援に行きたいと思っています。
他の勢力ともきちんと協議をする、法律も制度もすべての人に平等になるよう心がける、そういう自民党を作る。それを国民や党員の方々に訴え、同志とともに活動していく。それは私の仕事じゃないですか。
――そうですね。
石破 そして、むしろ野党の方がきちんとした選挙の体制を作り、政権構想を打ち出すべきじゃないんですか。政権交代可能な二大政党制というものを一度は実現したわけだから、前回政権を担当した時の失敗を踏まえた上で、国民に支持を訴えるべきではないんですか。
よく「石破さんが来てくれれば」とか戯言のように言う人がいるけれども、そんなものに頼るようではだめなんですよ。そもそも私は、「自民党を変えてくれ」という少なからぬ自民党員の方々の声に応えなければならないんです。
――しかし、今の体制が続けば自民党は変わらないでしょう。あの安倍さんだってもう一回やりたいようなニュアンスのことを漂わせているじゃないですか。そうすると、この体制が続く。あるいは第二の菅、第三の菅という人が出てくる可能性もありますよね。
石破 そうですか。
――すると、今と変わらない自民党がずっと続く。簡単に言ったら締め付けの非常にきついミニ全体主義みたいな体制が続くという事態になってしまうわけですよね。そうすると、政治家・石破茂にとってもまさに「座して死を待つ」というようなことにもなっちゃう可能性はあるわけですね。
石破 可能性としてはあるでしょう。でも、今でも別に私が迫害されているわけではないですからね。
――だけど、訴えるだけでは変わらないということがありますよね。何をすべきだと考えますか。
石破 訴えるだけでは変わらない、のではなくて、訴えるやり方が国民世論にまで届いていない、ということかもしれません。我々国会議員は言論の府の一員なのだから、あくまでも言論を大切にすべきです。
国民のいまの雰囲気が「いいじゃないか、今のままでも」という感じになっているのは、政治の側の現状を訴える努力が足りないからです。
このままいけば、20年後には人口が1500万人減ります。そういう事態に直面しているにもかかわらず、医療費の増大にも「20年後ね」という感じで受け止めている人が多いでしょう。
首都直下型地震も南海トラフ地震も、来るかもしれない、ではない。すでに「いつ来るか」なんです。明日にでも起こったら、この国はもたないですよ。でも「そんなこと起こらないよ」と心のどこかで思ってませんか。「20年後だよ」とか「先の話さ」とか、そんなこと起こりっこないよと思っている人が圧倒的に多いんじゃないですか。
今の問題のほとんどが構造的な問題ですから、それを変えるのは容易じゃない。でも、訴えなければ気が付く人はいない。そういうことじゃないでしょうか。
――前に指摘したように、やはり自民党の外の力を起こさないと自民党の中だけでは変わらないのではないですか。
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