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石破茂が小沢一郎と会っていたら……自民党総裁選「惨敗総括」(下)

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 安倍晋三前首相の公設第一秘書らが「桜を見る会」の前夜祭問題で東京地方検察庁特捜部から事情聴取を受けた。これまでの報道や私自身に入ってきた情報を総合すると、安倍事務所のやったことは政治資金規正法や公職選挙法違反に該当する疑いが強い。

 「安倍一強」時代の自民党内にあって反安倍のスタンスを明確にしてきた石破茂の政治的歴史的意味が格段に重くなった。党内の暗闘に敗れて現在雌伏中の身だが、私のインタビューに基づく過去二回の記事(『石破茂はどこで間違えたのか~自民党総裁選「惨敗総括」(上)』『石破茂はこれからどう生きるのか~自民党総裁選「惨敗総括」(中)』)でも明らかになった通り、正論を貫く姿勢には揺らぎがない。

 その石破は、今回のインタビューでは、自民党外の勢力とも積極的に話し合いたいという姿勢を明確にした。立憲民主党の中村喜四郎や小沢一郎にも、シンパシーや政治的な高評価を口にした。

なぜ「対菅」を前面に出さないのか

――菅政権に対する評価についてお聞きしたいと思います。今携帯の料金がどうのこうのとかハンコがどうのこうのと各論を言っても仕方ないので、最もクリティカルな論点を聞きます。

 まず、私は日本学術会議について、6人の会員任命を拒否したことは明らかな違法行為だと思います。その重要な問題がひとつあります。

 もうひとつは、日本学術会議の姿勢について、例えばデュアルユース(軍民共用)の技術の研究に関してはもっと柔軟になるべきだという議論があります。菅首相が学術会議に対して照準を合わせている大きな狙いはそこにあると思います。

 ただ、菅首相のやり方は最初に言いがかりをつけておいて、それをきっかけにして狙った方に持っていこうとする、簡単に言えば脅しのようなやり方です。これは政治のやり方としてよくない。

 石破さんはデュアルユースに関しては認めるべきだとする意見を持っていると思いますが、石破さんであれば、このような脅しの手法は採らないでしょう。であれば、石破さんから見て、菅政権に対する評価はマイナスなんじゃないですか。

拡大石破氏が自民党幹事長だった時は政府与党協議会などで官房長官だった菅義偉氏(左)と頻繁に会っていた=2014年5月19日、国会内

石破 いま、スタートしたばかりの菅政権を評価するのは尚早でしょう。政治のスタイルは違えど、同じ自民党所属であり、多くの議員の支持を受けて成立した内閣で、国民の支持率も高いのですから。

 黒川東京高検検事長の定年延長問題の時にあれだけ動いた世論が、今度の学術会議問題ではそれほど大きく動かない。それはやはり、国民生活にとって喫緊の課題ではないし身近な問題でもない、ということだと思います。

 私は今でも、森友問題、加計問題、「桜を見る会」について国民にとって納得のできる説明がなされたとは思っていません。しかし今般の学術会議の問題は、それらとは少し性質が違うものでしょう。政権側の説明が足りないという意味では同じかもしれませんが、戦後連綿と続いてきた政権与党と学術会議との論争という背景があります。

 しかし、国民の感覚がだんだん麻痺してきた、そんな印象は受けます。いろんなことに反応しなくなってきている。「これがそんな大変な問題なの」って思っている。実は、菅政権がどうのこうのという問題ではなくて、国民の感受性が鈍くなってきたことの方がよっぽど怖いと私は思っているんです。

――どうなんでしょうか。各種世論調査によれば、菅首相の説明では納得できないという数字の方が大きいですね。

石破 確かにそうですが、一方で6人(の任命拒否)を変える必要はない、という数字も大きいんですよ。

――それは、国民の鈍化ということはあるかもしれませんが、それを引き起こした政治の側の劣化ということの方が激しいのではないですか。石破さんが批判してきた安倍政権の7年8か月のうちに、森友、加計、「桜を見る会」と次々に不祥事、疑惑が起きてきて、前の不祥事、疑惑を忘れてしまうほど次の不祥事、疑惑によって記憶が書き換えられてしまう。そんな政治の劣化状態でした。

 この劣化した状態の安倍政治を全面的に引き継ぐという菅政権が厳然とあるわけです。そして、劣化した安倍政権の中核にいたのはまぎれもなく菅さんですよ。

石破 それは官房長官ですからね。

――立場上そうですし、実質的にもそうですよね。とすれば、石破さんとすれば、「対安倍」以上に「対菅」とならなければおかしいじゃないですか。

石破 私は、第二次安倍政権が誕生して2年弱は幹事長を拝命し、その後の2年間は地方創生担当の国務大臣でした。でも、後半は党幹部でも閣僚でもなかったので、今おっしゃったように、「実は菅さんが中核にいた」と言われても、私には確証はないんですね。確証がないことについては論評はできない。


筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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