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イエメン内戦5年、人口の8割が援助に依存する人道危機がコロナ禍で破局へ

[16]病院空爆による医療崩壊、全人口の4分の1が栄養失調

川上泰徳 中東ジャーナリスト

最悪の場合、全人口の9割以上が感染

イエメン南西部の都市タイズを訪れる人たちへの医療検査場で=2020年2月 anasalhajj
/Shutterstock.com拡大イエメン南西部の都市タイズを訪れる人たちへの医療検査場で=2020年2月 anasalhajj /Shutterstock.com

 イエメンの惨状については、国際的な支援組織「国際救済委員会」(IRC)が「2021年の世界が目を向けなければならない10大危機」という12月の報告で、もっとも深刻な危機が予想される国としてイエメンをトップに挙げている。内戦や紛争が続くアフガニスタンやシリアよりも深刻で、「絶え間ない紛争と飢饉の恐れ」があるとして、3年連続で最悪国に位置づけた。

 IRCは次のように記述する。

 「5年間、戦闘が続き、国際的な支援も不足し、さらにコロナ危機によって、人道的な対応は2020年に崩壊の淵に追い込まれた。人口の80%が援助を求めている。イエメン人はコロナ感染よりも飢餓のほうをより恐れているという。コロナの感染拡大はイエメンの経済危機を深刻化させている。内戦の政治的な解決が見えない状況で、イエメンは飢饉の危機に瀕している」

 IRCが7月に出したレポートではイエメンではこれまでに23万3000人が紛争で命を落としたと推計し、「死亡の多くは食料や医療、電気・水道などの社会インフラが欠如していることが原因」と書いている。コロナ対応の医療インフラについては、全土でわずか380台の人工呼吸器しかなく、ICU(集中治療室)のベッドは710床という。人口55万の南部の主要都市アデンではコロナ対応のベッドは60床で、人工呼吸器は18台しかないという。

 イエメンでのコロナ蔓延についてIRCは、人口の55%にあたる1600万人が感染し、4万2000人が死亡する可能性があるとし、もし対策が何も取られなければ、最悪の場合、全人口の9割以上が感染し、8万5000人が死亡することにもなりかねないと予測する。

 イエメン内戦では、イランがシーア派のフーシを支援し、それに対してサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が主導して、2015年にアラブ有志連合が形成され、フーシ支配地域への空爆を始めた。紛争や人道危機のデータを収集する市民組織「武力紛争地と事件のデータプロジェクト」(ACLED)によると、「5年間の内戦で、11万2000人が直接、戦闘によって死亡し、そのうち1万2600人の民間人が意図的な民間地域攻撃で死んだ」としている。

 民間人の死者のうち約8000人については、サウジとUAEの空爆による死者と見られ、戦争犯罪の疑いがあるとして国際的に批判されている。両国とも米国の戦闘機や武器を使ったもので、米国の上院、下院とも2019年に両国への武器売却を停止する決議を採択したが、トランプ大統領が拒否し、大統領の判断で武器売却が続いてきた。

 サウジとUAEの無差別空爆で問題になっているのは、病院施設に対する空爆だ。国連人道問題調整事務所 (UNOCHA)が今年3月に発表した報告によると、世界保健機関(WHO)は2015年以来、病院や医療施設に対する142件の攻撃があったことを記録し、国内にある病院や医療施設のうち機能しているのは半数に過ぎないという。病院攻撃はフーシによる砲撃もあるものの、サウジとUAEによる空爆が目立っている。内戦による病院破壊が、コロナ感染対応でも深刻な阻害要因になっている。

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

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