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日米協議で放った乾坤一擲のジョーク。中国の“乾杯攻撃”に立ち向かい……

連載・失敗だらけの役人人生⑧ 元防衛事務次官・黒江哲郎が語る教訓

黒江哲郎 元防衛事務次官

乾坤一擲のジョーク

 当時の日米協議はいつもギスギスしていたので、もう少し良い雰囲気の中で協議したかったというのが正直な感想です。私は元来口が重く、陽気な米国人相手に冗談を言ったりするのは苦手なのですが、あまりの雰囲気の重さに耐えかねて乾坤一榔のジョークを放ったこともありました。

 2011 年(平成23年)4月1日のことです。この時期は、普天間移設が進展していなかった上に、東日本大震災の直後ということもあって日米協議にも停滞感が漂っていました。そんな雰囲気をどうにか変えられないかと考えていたところ、協議前日の3月31日にフランス大統領が来日して日仏首脳会談が行われました。

 当時、空自のF4戦闘機の後継機選定が課題となっており、下馬評では米国のF35が圧倒的に優位と見られていたのですが、一応フランスの戦闘機「ラファール」も候補に入っていました。そこで、これをネタに一計を案じました。

拡大F4EJファントム=1971年、愛知県の航空自衛小牧基地

 日米協議の冒頭、「今日は重要な報告が一つある。昨夜の日仏首脳会談で、フランス側から水没したF2戦闘機の代替としてラファールを供与しても良いとの提案があった。来るべきF4後継機の選定に当たっても、この提案は考慮に入れることになるだろう」と切り出しました。松島基地で津波の被害に遭ったF2の代替機をフランスが供与してくれるので、この好意に報いるためF4後継機の選定では仏製戦闘機を有力候補として扱う、という趣旨です。

 もちろん架空の話なのですが、F2の水没は事実だったので、私のカウンターパートは思わぬライバル出現と思い込み「フランスはいくらで売ると言っているのか」と真顔で問いてきました。私が真面目な顔で「今後の調整によるが、無償援助の可能性もあると聞いている」と答えたところ、彼はやや顔を引きつらせて「なんと気前の良いことか」とつぶやきながらメモをとっていました。

 気がつくと私の隣に座っていた外務省の審議官も怪訪な顔でメモをとっていたので、頃合いと判断して「今日は4月1日だよね」と言ったところ、会議室は大爆笑に包まれました。エイプリルフール限定のジョークでしたが、この日の協議はいつになく和やかに進みました。

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筆者

黒江哲郎

黒江哲郎(くろえ・てつろう) 元防衛事務次官

1958年山形県生まれ。東京大学法学部卒。81年防衛庁に文官の「背広組」として入り、省昇格後に運用企画局長や官房長、防衛政策局長など要職を歴任して2017年退官。現在は三井住友海上火災保険顧問

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