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アフガン情勢は国際関係に深刻な影響をもたらすのか~世界秩序を守るための中長期的視点

タリバン動向が未知数の中、各国関係は複雑化。軍事行動の前に外交を尽くせ

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

最も重大な懸念は国際秩序への中長期的な影響だ

 中東における米国のイラク戦争、アフガン戦争は膨大な人的・財政的コストをかけ、10年近くの時を経て終わりを告げた。

 イラクではサダム・フセインの体制を崩壊させ、アフガンではウサマ・ビン・ラデンを殺害し、アルカイーダの勢力を削ぎ、一定の目的は達成されたが、イラクでは引き続き治安は安定せず、アフガンにおいてはタリバン支配に戻った。

拡大米ホワイトハウスの危機管理室で、ビンラディン容疑者の急襲作戦現場からの同時中継を見守るオバマ大統領(左から2人目)ら米政府首脳=2011年5月1日、ホワイトハウス提供
 中国やロシアはタリバンに支援を受けたテロが自国に波及するのは警戒しながら、他国に「民主主義」を押し付けることは出来ないとして米国の威信の低下を大々的に喧伝している。中ロは今後とも今回の米軍撤退で生まれている中東での力の空白をうずめるべく影響力を増やそうとしていくのだろう。

 米国自身も今後「力の行使」にはより慎重となっていくのだろうが、このような情勢の展開が国際秩序にどういう意味を持つのだろうか。

米国の約束の信頼性は? 尖閣は明確、台湾は曖昧さが残る

 米国がアフガニスタン政府と軍を見捨てて撤退し、タリバンの攻勢を許したことによって、米国への信頼性が傷ついているのではないか、という議論がある。特に、今後の世界の対立軸である米中対立が激化し、軍事的対立も視野に入った時、米国は台湾や尖閣に対する米国の従来の約束を履行することが出来るのか。

 NATOや日米安全保障条約など条約上共同防衛義務が定められている時に米国が約束を履行しないという事態はまず考えられない。従って尖閣諸島のケースは米国自身が防衛義務を定める日米安保条約第5条の適用範囲と明確にしているわけで、もし中国が侵略的行動を起こした場合に米国が日本防衛をしないことは考えられない。

 台湾のケースは曖昧さが残る。米国は台湾が中国の一部であるという中国の主張を認知してはいるが、国内法である台湾関係法で中国の軍事行動にはしかるべき対処することとしている。このような枠組みを維持することによって中国の軍事的行動を抑止しているわけだ。

拡大日米安全保障協議委員会(2プラス2)後の記者会見を終えてあいさつする(左から)オースティン米国防長官、茂木敏充外相、ブリンケン米国務長官、岸信夫防衛相。共同文書で、尖閣諸島については日米安保条約第5条が適用されると改めて確認した=2021年3月16日

米の軍事行動は米の国益上の判断

 いずれにせよ、米国が軍事的行動をとるかどうかの究極的判断は米国自身の国益の判断である。

 もし9.11のようなテロ攻撃が再び米国に対してとられた場合には、おそらく米国はアフガン戦争と同じような行動をとるのだろう。米国の国益を守るために軍事的自衛行動をとると言う事だ。台湾の問題にしても中国が軍事的行動をとった場合に、これを放置する事は東アジアにおける中国の覇権を認めることにつながるとの判断の下に米国は軍事介入をするのだろう。

 従って今回のアフガニスタンからの米軍撤退により米国のクレディビリティが損なわれたというのは拙速な議論だ。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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