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デジタルと新自由主義の結合がもたらすファシズムの危機~堤未果の警告・下 

個人の尊厳や自由が奪われた社会にしないために必要なこととは?

高瀨毅 ノンフィクション作家・ジャーナリスト

使う側が“利用”されている?

 そこまで情報化するのは、利用者の都合というより、データを集積、利用したい側にあるはずだ。それを利便性という言葉で置き換えられ、使う側は“利用”されてしまっているのではないか。

 スウェーデンでは、最近の世論調査で、国民の7割が現金という選択肢を残したいと答えている。スウェーデンの警察のトップも務めた、元インターポール(国際刑事警察機構)総裁ビョルン・エリクソンは、2015年に通貨クローナの廃止を阻止する団体を立ち上げている。「通貨が完全にデジタル化されたら、システムを止められた時に自分を守る術がない」からだ。行き過ぎたキャッシュレス化に国民が不安を感じていることは確かで、最近は現金こそ自分たちの安心安全を守るものと考えているという。

 「スウェーデンはキャッシュレス化に突っ走ってきて、いま引き返そうとしているんです。思ったように犯罪は減りませんしね。ところが、日本は周回遅れで本格的なキャッシュレス社会がスタートする感じですね」と著者は語る。

「災害時には現金に大きな役割がある」

 日本のキャッシュレス決済率は2020年で約3割。欧米諸国、中国よりも明らかに低く、まだまだ現金大国である。しかし、それを遅れていると言うべきなのだろうか。

 日本は災害大国だ。地震、火山の爆発、台風、豪雨、洪水、土砂崩れなどで、毎年多くの命が失われる。温暖化などでここ10年ほど風水害の規模は以前より大型化している。大地震も全国のどこで起きても不思議ではない。「こうした自然災害大国で災害時には現金はまだまだ大きな役割がある」(著者)。

拡大soi7studio/shutterstock.com

受けられる公共サービスに差がつく中国

 デジタル化が進展し拡大する中国では、受けられる公共サービスに差がつく。

 中国のEコマース大手、アリババの決済アプリ「アリペイ」を例にとると、決済情報から取り込んだ個人の買い物データや銀行へのローン返済履歴に、日常的に集められる膨大な個人情報を合体させ、AIが点数化した「信用スコア」を、自社の決済システムに搭載しているという。「信用スコア」は学歴、勤務先、資産、人脈、行動、返済履歴などの5項目から計算されていて、その点数によって受給可能な公共サービスが決まる仕組みだ。

 公共サービスが、各個人の決済状況や、履歴、職業、地位という“社会的信用性”と組み合わさって決められるとすれば、税金で成り立つ「公共性」を崩壊させることにもなりかねない。これを共産党一党支配の中国の特殊性として無視することができるだろうか。デジタル社会では個人情報が国家に細かく捕捉・管理されることに変わりはないからだ。

デジタルと人間が融合する「第4次産業革命」

 デジタルと人間が融合していく世界は「第4次産業革命」と呼ばれる。内閣府のホームページにも記述がある。要約すると、「水力や蒸気機関による工場の機械化が第1次。20世紀初頭の電力を用いた大量生産が第2次。1970年代からの電子工学や情報技術によるオートメーション化が第3次。第4次はこれに続くコアとなる技術革新を指す」

 具体的には、「IoT及びビッグデータ」と「AI」であるとして、第4次産業革命の社会を次のように描く。「こうした第4次産業革命の進展は、生産、販売、消費といった経済活動に加え、健康、医療、公共サービス等の幅広い分野や、人々の働き方、ライフスタイルにも影響を与えると考えられる」

 第3次までの産業革命は、生産業界を中心としたものが主体だった。しかし第4次産業革命は、生産(川上)から消費(川下)まで巻き込んでの変革になるということだ。すでにスマホ利用やキャッシュレスなどでその利便性は十分に理解できているのだが、それがさらに想像を超えたサービス、財の提供として現れてくることになる。だからこそ立ち止まって考える必要がある、と著者は強調する。

 「私たちは、どうしても科学技術信奉主義に陥りがちで、イノベーションを止めてはいけないという意識が強い。でも原子力はその後どうなったのか。遺伝子工学はどうなのか(遺伝子組み換えなどの問題がある)ということです」

拡大デジタル庁のオフィスの看板

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筆者

高瀨毅

高瀨毅(たかせ・つよし) ノンフィクション作家・ジャーナリスト

1955年。長崎市生まれ。明治大卒。ニッポン放送記者、ディレクターを経て独立。『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』『ブラボー 隠されたビキニ水爆実験の真実』など歴史や核問題などの著作のほか、AERAの「現代の肖像」で人物ドキュメントを20年以上執筆。ラジオ、テレビのコメンテーターなどとしても活躍。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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