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フリーメイソンに昭和天皇は興味を抱いたのか?『昭和天皇拝謁記』を軸に読み解く

天皇の入会工作には失敗。周囲の旧皇族や旧王族への働きかけに転換

小宮京 青山学院大学文学部教授

 先頃、『昭和天皇拝謁記 第1巻』(岩波書店、2021年)が刊行された。初代宮内庁長官を務めた田島道治(たじま・みちじ)が昭和天皇の言動を記録したものである。

 ページをめくっていると、ある衝撃的な記述が目に飛び込んできた。

 1950年7月24日、昭和天皇が田島宮内庁長官に向かって、次のように質問していたのだ。

 「Masonとは何だ」

 Mason。フリーメイソンのことである。

 筆者はこれまで「論座」で折に触れて日本のフリーメイソンの歴史を紹介してきた。本稿は、「日本のフリーメイソンのこと知ってますか?(上))」「日本のフリーメイソンのこと知ってますか?(下)」「坂本龍馬はフリーメイソンだったのか?」 に続く論考である。テーマは昭和天皇とフリーメイソンについて。

 フリーメイソンに興味のある方には、天皇や皇室とフリーメイソンという話題はお馴染みかもしれない。本稿では新たな資料である『昭和天皇拝謁記 第1巻』のこの衝撃的な発言を軸に、昭和天皇とフリーメイソンをめぐる言説の真偽を確認してみたい。

拡大1950年、四国巡幸で歓迎する人たちに帽子を高々と振って応える昭和天皇=1950年3月20日、愛媛県松山市

昭和天皇・フリーメイソン化計画

 戦後、日本で占領政策を実施したGHQ(連合国最高司令官総司令部)の最高司令官マッカーサーが、昭和天皇をフリーメイソンに勧誘したという話がある。例えば、フリーメイソンに入会していた笠井重治(元衆議院議員)は、マッカーサーから「メーソンのアジアというものを作りたい」という手紙が来て「重要な会合なので天皇を加えたい」と要請されたとする(赤間剛『フリーメイソンの秘密』三一書房、1983年、96頁)。

 この笠井証言は事実関係が怪しい。だが、フリーメイソンであるマッカーサーが昭和天皇を誘った、あるいは昭和天皇がフリーメイソンに関心を示したという話を、よく耳にする。

 とりわけフリーメイソン関係者の間では、昭和天皇が興味を示したことは、“事実”として受け止められてきた。フリーメイソンの公式記録に、次のように記されているからである。

 ――昭和天皇が興味を持ったため、マイケル・リヴィストに皇居に来てフリーメイソンについて説明するように求めた。(Nohea O.A. Peck, Masonry in Japan: The First One Hundred Years, 1866-1966. Privately printed for the Grand Lodge of Free and Accepted Masons of Japan 1966, p.344.)

 この公式記録があるために、「昭和天皇・フリーメイソン化計画」、あるいは「天皇メイソン化計画」は、占領期の秘話として、あるいは都市伝説として、人口に膾炙(かいしゃ)している。


筆者

小宮京

小宮京(こみや・ひとし) 青山学院大学文学部教授

東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は日本現代史・政治学。桃山学院大学法学部准教授等を経て現職。著書に『自由民主党の誕生 総裁公選と組織政党論』(木鐸社)、『自民党政治の源流 事前審査制の史的検証』(共著、吉田書店)『山川健次郎日記』(共編著、芙蓉書房出版)、『河井弥八日記 戦後篇1-3』(同、信山社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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