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「女性天皇・女系天皇」の議論をなぜ避けるのか~疑問に満ちた有識者会議報告書

「安定的な皇位継承」問題の核心を先送り。これでは国民の理解と支持は得られない

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

2022年のえとにちなんだ「虎張子」について話す天皇ご一家=2021年12月21日、御所、宮内庁提供

安定的皇位継承のあり方、国会決議から4年半経て最終報告

 岸田文雄首相は1月12日に、安定的な皇位継承のあり方を議論する有識者会議の最終報告書を衆参両院議長に手交した。国会は2017年6月に天皇退位の特例法を制定した際、政府に対して、安定的な皇位継承を確保するための諸課題や女性宮家の創設などを検討、報告するよう付帯決議で求めたが、当時の安倍晋三政権はこの要請に対して何らの対応も行わず、菅義偉政権になった2021年3月にようやくこの問題を検討するための有識者会議が設置された。そして付帯決議の採択から実に4年半を経て報告書が提出されたのである。

 今回の有識者会議は、6名の構成メンバー(委員)が3カ月をかけて21名の専門家からヒアリングを行い、それを踏まえて議論を行った上で報告書を取りまとめたとされている。まずは、この重要な課題に真摯に取り組んだ6名の委員の方々のご努力に敬意を表したい。

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する付帯決議」について、報告書を細田博之衆院議長(中央)、山東昭子参院議長(左)に手渡す岸田文雄首相=2022年1月12日

重要課題先送り、「皇族数確保」が主題―これでは回答にならぬ

 筆者は、21名の専門家の発言全文を含むすべての会議議事録を読んだ上で報告書の内容を精査したが、遺憾ながら、それは、国会の付帯決議において明確に要請されている「安定的な皇位継承の在り方」に正面から取り組んでいないと判断された。

天皇陛下の退位を実現する特例法を可決した参院本会議。審議した衆参の委員会は付帯決議も可決し、政府に「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」の検討を求めた=2017年6月9日
 またこの問題に関して国民の最大の関心事とも言うべき「女性天皇・女系天皇」の是非については、すべての専門家から賛否両論の活発な意見表明があったにもかかわらず、委員の間においてはほとんど議論をせずに、報告書においては「皇位継承については具体的議論をする機は熟していない」として、この重要課題を先送りした。

 それに代わって、報告書の中心となったことは、「皇族数の確保」であるが、これは「安定的皇位継承」という最重要課題に対して直接の回答となっていないので、多くの国民の理解と支持を得られる内容ではないと言わざるを得ない。以下にその理由を説明する。

現行の皇位継承順位を検討の前提にする論理矛盾

 報告書は皇位継承に関する基本的な考え方の冒頭において、今上天皇、秋篠宮皇嗣、悠仁さまという現時点におけるお三方の皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない、と断定している。これは現行の皇室典範の規定を前提とした皇位継承の流れであるが、この皇室典範のいくつかの条項が、安定的な皇位継承の実現にとって障害となっていると解釈されることに鑑みると、安定的な皇位継承のための方策を検討する前提として、現行の皇位継承順位の維持を掲げることは、論理矛盾ではなかろうか。

「即位礼正殿の儀」を終え、退出する天皇陛下。奥は皇嗣の秋篠宮さまと、紀子さま、眞子さま、佳子さま。平成の際はこの場所には6人の男性皇族がいた=2019年10月22日午後、皇居・宮殿
 即ち、まず安定的な皇位継承についての検討の結論を得てから、それに照らして『現行の継承順位を維持することが適切か否か』を決めるべきである。

 より具体的に述べると、報告書は、この問題の検討の初めから、今上天皇の唯一の子孫である愛子さまが、将来皇位継承者になる可能性を事実上否定しているのである。これは、安定的な皇位継承のための方策を網羅的に検討していないことになるのみならず、後述するように、国民世論にも全く配慮していないものと言わざるを得ない。

「即位礼正殿の儀」で、即位を宣言する天皇陛下。奥は皇后さま=2019年10月22日、皇居・宮殿「松の間」

「皇族数確保」が必要な理由とは―報告書が示す方策を検証する

 有識者会議の報告書は、我が国の歴史の中で、如何にして皇位が男系男子によって継承されてきたかの背景について全く言及せずに、唐突に「悠仁親王殿下が皇位を継承されたときには、現行制度の下では、同殿下以外には皇族がおられなくなる」ので、その事態を避けるためには、「皇族数の確保を図ることが、喫緊の課題」と決めつけている。そしてまず皇族の役割の観点から皇族数の確保が必要であり、皇室典範の規定により、皇室会議の議員として2名の皇族が、また予備議員として2名の皇族が必要と説明している。

立皇嗣の礼に臨むため御仮寓所(ごかぐうしょ)を出発する秋篠宮ご夫妻を見送る悠仁さま=2020年11月8日、東京都港区
 現在の皇族は、天皇、皇后、上皇、上皇后を除いて13方おられるが、2017年の天皇退位に関して開催された皇室会議が、実に25年ぶりの開催であったことにも明らかなとおり、皇室会議の議員としての役割が皇族のご負担になるとは到底考えられない。また皇族方が各種団体の名誉役員になられたり、文化・スポーツなどの行事にご参列されることは、国民として大変有り難いことであるが、これらの役割は絶対に必要というものではなく、皇族数に応じて、ご負担にならない範囲で対応されれば良いものと考えられる。

 以上から明らかなとおり、皇族数確保の真の必要性は、皇室の役割を果たすためではなく、皇位の安定的継承の確立のためでなければならない。

方策①「女性宮家の設立」は有効な措置

三笠宮家の長女・彬子さま。左は故寛仁親王の写真=2022年1月20日、東京・元赤坂の三笠宮東邸
 報告書は、皇族数確保の具体的方策として、第一に「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること」を掲げている。これはいわゆる「女性宮家の設立」であり、これは皇位の安定的継承を念頭に置いた皇族数確保のために有効な措置として高く評価できる。

 現在10方おられる女性皇族のうち未婚の女性は5方である。これらの方々は、既に多くの社会活動を行われており、ご結婚後もそれを継続されることは日本社会のためにも極めて有意義であると確信する。

三笠宮家の次女・瑶子さま=2018年9月8日、東京都港区の芝浦工業大学
 ただし、現在及び将来のすべての未婚の女性皇族方が、婚姻後に皇族の身分を維持することを望んでおられるか否かは分からない。

 現代の社会においては、皇族といえども、将来の自分の身分についてある程度の選択の自由があってしかるべしと思うので、皇室典範12条の改廃の検討に当たっては、この点を考慮に入れる必要がある。

高円宮家の長女・承子さま=2018年5月22日、羽田空港
 他方、報告書は、この制度は皇位継承資格を女系に拡大することにつながるのではないかという反対論もあるとして、「その子は皇位継承資格を持たないとすることも考えられる」と踏みこんだ。皇位継承について全く議論していないこの報告書が、この点について女系の皇位継承資格の否定を先取りしていることは、極めて不適切である。

方策②「皇族の養子縁組」は法的にも現実的にも問題が多い

 報告書は、皇族数確保のための第二の方策として、「養子縁組により、皇統に属する男系男子を皇族とする」との案を示している。これに対してはヒアリングをした約半数の専門家が反対乃至は問題が多いとの見解を示している。

 第一の問題点は、養子縁組の対象を皇統の男系男子に限定することが、性別や門地による差別を禁止する憲法14条に反する疑いがあることである。また養子縁組の目的が、報告書の示すとおり皇族数の確保のためであるとすれば、なぜ、それを男系男子に限る必要があるのか。この案は、有識者会議が議論を避けたはずの皇位継承の問題について、「皇位継承者は男系男子に限る」という現行の法制を前提にしているのである。

 養子縁組についての第二の問題点は、70年も前の1952年に皇籍を離脱した11宮家の子孫が突然に養子縁組により皇族になることに対して国民は近親感をもって迎えられないのではないかという懸念である。皇室は国民から温かく迎えられて初めて存在意義があるのであり、このような問題の多い方策は、本来の目的とは逆に、安定的な皇位継承に支障をもたらすことにもなりかねない。

方策③「直接に皇族とする」は選択肢にすることすら疑問

 なお、報告書が第三の方策として記載している「皇統に属する男系男子を直接に皇族とする」案は、報告書自体が記載している通り、「国民の理解と支持の観点から、養子縁組の案より困難」であり、これを選択肢の一つとして掲げることの妥当性を疑う。

皇居へ引っ越すため赤坂御所を出発する天皇陛下。「三種の神器」の剣と璽の入ったケースを手に侍従が従った=2021年9月6日

歴史的事実の確認:女性天皇を認めねば安定的継承に危機のおそれ

 以上により明らかに言えることは、皇族数確保のために報告書が提案する3つの方策のうち、同意できるのは、いわゆる「女性宮家の設立」のみである。しかし、これにより皇族数を確保することが、安定的な皇位継承のために必要十分な条件であろうか。

 この設問に答えるためには、まず、歴史的事実を再確認しておく必要がある。

「即位礼正殿の儀」に十二単の装束で臨んだ女性皇族方。前列に常陸宮妃華子さま、寛仁親王妃信子さま。後列に三笠宮家の彬子さま、三笠宮家の瑶子さま、高円宮妃久子さま、高円宮家の承子さま=2019年10月22日、宮殿・松の間

10代8方の女性天皇が存在した

 その第一は、歴代の天皇の中には、10代8方の女性天皇が存在したことであり、これは有識者会議の中でもしばしば言及されている。またこれは奈良時代や平安時代にのみ生じた現象ではなく、最新の女性天皇は、明治天皇の5代前(江戸時代後期)の後桜町天皇である。

 過去において10代8方の女性天皇が生じたのは、直系男子が幼少であったこと或いは皇室内の勢力争いの都合など様々な理由により、皇族女性が後継天皇に指名されたことによるのであり、男性皇族数が不足していた訳ではないと考えられる。

2019年の「新年祝賀の儀」に参列した女性皇族方=2019年1月1日、皇居・宮殿「松の間」

歴代天皇の半数近くは嫡出ではない

 第二は、過去126代にわたる天皇の半数近くは嫡出ではないこと、即ち側室からご誕生された方である。特に江戸時代初期以降の19代の天皇については、嫡出の天皇は今上天皇、上皇、昭和天皇及び明正天皇のわずか4方に過ぎない。

 これから導き出されることは、側室制度の再現は全くあり得ない今日の日本においては、もし女性天皇を認めないのであれば、皇位の安定的な継承が危機に瀕するおそれがあることである。

報告書は何故、女性天皇を検討しなかったのか

 それにもかかわらず報告書は、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題と断定して、皇位継承の問題自体を検討しなかった。皇位継承の問題を検討することは、必然的に女性天皇を容認するか否かを検討しなければならないが、なぜその検討を避けたのかについて、報告書には一切説明がなされていない。

専門家21人の約半数は女性天皇に賛成と明言

安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議で、初めて実施された専門家ヒアリング=2021年4月8日、首相官邸
 有識者会議においてヒアリングの対象となった21名の専門家の約半数は、女性天皇に賛成すると明言している。さらにそのうちの数名は女系天皇も支持する趣を述べている。

 報告書がこの事実に全く言及しなかった理由としては、有識者会議を主導した政府が、現状においてこの議論を国会において行うことは、女性天皇、女系天皇を認める方向性を強めることを懸念したからではないかと憶測したくなる。

 また女性天皇に反対する人の中には、女性天皇は1代限りで終わるので、いずれ女系天皇の議論になるから、その入り口である女性天皇を否定する必要があるとの指摘も聞かれる。しかし、もし女性天皇が即位した場合も、その次の代までは相当な年数があると考えられるので、女系天皇の是非について早急な意見の一致が困難な場合には、その後の状況を見てから検討することも十分可能である。

「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」で集まった人たちに手を振る天皇、皇后両陛下=2019年11月9日、皇居

国民世論を無視して良いのか

成年の行事に臨む天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2021年12月5日、皇居・宮殿西車寄
 安定的皇位継承の議論が国会において行われていない状況においては、国民世論の動向を知る有効な手段はメディアの行う世論調査である。

 この報告書は本文中においても、また豊富な参考資料の中にも安定的皇位継承についての世論調査に全く言及していないが、ここ2~3年の間に行われたほとんどの世論調査においては、女性天皇に賛成する人は8割近くに及んでいる。また女系天皇についても約7割の人が容認するとしている。

 安定的な皇位継承の問題は、国家の象徴である天皇にかかわるものであり、政府も常々、国民感情に沿った対応が必要としているので、今後の国会における議論においては、世論調査の動向にも十分耳を傾けてほしい。なお、保守の女性論客として鳴らしている自由民主党のある役員は、雑誌のインタビューにおいて、自分は「女性天皇に反対しているわけではない、女系天皇には反対する」旨を述べている。

愛子さま20歳、佳子さま27歳―「女性宮家」の結論は急がれる

赤坂御用地を散策する秋篠宮家の次女佳子さま=2021年12月3日、宮内庁提供
 愛子さまは、昨年12月に成人となられ、2年後の春には学習院大学をご卒業になられる予定であり、すでにご卒業後の人生設計を考えておられる頃と拝察する。また一般の女性で言えば、適齢期にも近づいている。ご結婚される時点において、もし現行の該当条項である皇室典範12条が削除または修正されていなければ、結婚により自動的に皇族の身分を離れることになる。

 他の女性皇族についてみると、佳子さまは27歳、それ以外の方は30代後半以上である。このことからも、いわゆる「女性宮家の設立」は、早急な結論が必要である。

国会の議論に期待すること

 本件有識者会議は、昨年10月に成立した岸田文雄内閣に引き継がれ、その報告書は本年1月に衆参両院議長に提出された。それから一ヶ月以上が経過するが、現在は各政党ごとにこの報告書を検討している段階とされ、全体の動きは伝わってこない。報道によると、各党とも、7月の参議院選挙を控えて皇位継承問題を選挙の争点とはしたくないとの思惑によるという。

第208回通常国会に臨む天皇陛下=2022年1月17日

政争から切り離し、各議員の信念と良心に従った議論を

 この問題は、皇室の在り方に直結する問題であり、これが政争の具とされることは断じて避けるべきであろう。そのことは、選挙についてのみ言えることではなく、国会の審議においても同様である。

 即ち、この問題は党利党略とは完全に切り離して、個々の議員が自らの信念と良心に従って個人の責任の下に議論し、議決の際には、各党とも党議拘束を外すべきものと考える。

衆参に特別委設置し、落ち着いた環境で審議を

 国会における審議の進め方は、国会の慣習に従うべきことは当然であるが、問題の重要性に鑑みると、他の法案の審議日程などに影響されずに、落ち着いた環境で十分な時間をかけて審議ができるよう、衆参ともに特別委員会を設置することが望ましいと考える。

 因みに、現在の皇室典範の制定が審議された際(1946年)には、帝国議会に「皇室典範案委員会」が設立され、憲法問題担当の金森徳次郎国務大臣の出席を得て精力的な議論が行われた。

過去の有識者会議の報告書や論点整理は極めて有益

 上記の特別委員会において議論を行う際の参考資料としては、今回の有識者会議の報告書の提出は当然であるとして、それ以外に、小泉純一郎内閣の下で検討された「皇室典範に関する有識者会議報告書」(2005年)、及び野田佳彦内閣の下で検討された「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」(2012年)も、参考資料として是非提出していただきたい。

女性天皇・女系天皇を容認するとする報告書を小泉純一郎首相に手渡す「皇室典範に関する有識者会議」の吉川弘之座長(左)=2005年11月24日、首相官邸
皇室制度に関して野田内閣が行った有識者ヒアリング。初回はジャーナリストの田原総一朗氏(右)らから話を聞いた=2012年2月29日、首相官邸

 前者は、「(安定的な皇位継承の)検討に際しては、今後、皇室に男子がご誕生になることも含め、様々な状況を考慮した」と報告書の末尾に明記されている通り、悠仁さま誕生後の今日においても有効な内容の報告書である。

 また後者は、本件に関する上記三つの有識者会議による提言に共通する「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること」に関して、その配偶者や子供の皇族としての地位などについて掘り下げた分析を行っている有益な文献である。

天皇、皇后両陛下と長女愛子さまは2021年9月6日、長年住んでいた赤坂御所(東京・元赤坂)を離れ、皇居に移った。皇居・御所に入るご一家

まずは「女性宮家」の設立及び「女性天皇」の容認を

 今回の有識者会議が3回目のヒアリングを終えた昨年5月の時点で、筆者は、この会議が検討を促進して「女性天皇、女系天皇を原則的に容認し、具体的には、まず女性宮家の設立を明記する報告書を年内に提出する」ことを促す論考を論座に掲載した(2021年5月17日付「女性天皇・女系天皇を容認し、まずは女性宮家創設を」)。

安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議で、清家篤座長(左)から報告書を受け取る岸田文雄首相=2021年12月22日、首相官邸
 しかしながら、
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