松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
何が社会を劣化させ、犯行を招いたのか
安倍晋三元首相が銃撃を受けて死去し、事件をきっかけに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関係などが浮かび上がってきました。直後に投開票された参院選では、選ばれた125議席の過半数を自民党が単独で獲得。旧民主党系の立憲民主、国民民主両党はともに議席を減らし、「自民党をピリッとさせる」と唱えた日本維新の会が伸びました。
私たちは事件から何をくみとるべきか。野党は今後どうすべきか。日本に政権交代可能な政治状況をつくろうと長年、とりくんできた山口二郎・法政大学教授と神津里季生・前連合会長が語り合いました。司会は「論座」編集長・松下秀雄。銃撃事件を中心とする(上)と、参院選や野党のあり方を中心とする(下)の2回にわけて公開します。(論座編集部)
山口二郎
(やまぐち・じろう)
法政大学法学部教授(政治学)
1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に『大蔵官僚支配の終焉』『政治改革』『ブレア時代のイギリス』『政権交代とは何だったのか』『若者のための政治マニュアル』など。
神津里季生
(こうづ・りきお)
連合顧問・全労済協会理事長
1956年生まれ。東京大学教養学部卒。新日本製鐵労働組合連合会会長、日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員長、連合事務局長などを経て2015年10月から21年10月まで連合会長。著書に『神津式 労働問題のレッスン』。
松下秀雄
(まつした・ひでお)
朝日新聞「論座」編集長
1964年生まれ。朝日新聞政治部記者、論説委員、編集委員を経て現職。
松下)7月の参院選の結果と、安倍晋三元首相銃撃という衝撃的な事件を踏まえて、今後の政治について語り合っていただければと思います。まず、安倍さんが亡くなったことの受け止めから。
山口)最初、これは政治的テロかなと思って非常に衝撃を受けました。20世紀の全体主義の歴史を研究しているイェール大学のティモシー・スナイダーが書いた『暴政』という本を事件2日前に学部のゼミで読んでいて、読んだ箇所にドイツの国会議事堂炎上事件とヒトラーの話があったんです。想定外のことが起きても冷静でいることが独裁を防ぐ鍵だというところを読んだ2日後、しかも投票日直前ということで、ともかく最後まで自由に議論しながら選挙をすることが民主主義を守るためにも必要だということを、ツイッターなどでも書きました。
そのあと背景が明らかになってきて、旧統一教会によって人生を台なしにされた怨念にもとづく犯行だったと伝えられたので、政治的テロとは別の観点で背景を掘り下げていく必要があると思っているところです。
神津)私も啞然とし、あってはならないことが起きたと思いました。いろんな背景要素が絡まっています。あのお粗末な警備体制は信じられない。世界に恥をさらしたといっても過言ではないと思う。それから、ああいう教団にメディアをはじめ社会がもっと目を向け、問題点をえぐりだし、退場していただくことが本来あるべきだと思うわけです。それがないまま見過ごされてきた。
それは相当な数の政治家がお世話になっていて、取り締まる側にも忖度が生じてしまい、メディアや私たちをふくめ、社会が忖度に染まってしまっていたことが背景にあるといわざるをえない。