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大分県保戸島の職業潜水士3人は何故死亡したのか

湯之上隆

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

大分県保戸島の海洋牧場で、作業中の潜水士3人が死亡する事故が3月17日に発生した。海洋牧場とは水面に浮かべたブイから音を出して魚を集め餌付けする施設で、ブイは水深57mに沈められたコンクリート製ブロック3個にチェーンで固定されていた(下図)。施設の老朽化に伴い海底のブロックを引き上げようと、クレーン船のワイヤ2本を一つのブロックに取り付ける最中に事故が起きた。 私はレジャーダイビングのインストラクターであるが、「職業潜水士3人が同時に死亡した」事故に異常性を感じる。
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 一体何があったのか?

 レジャーダイビングと同じ12~14リットル圧縮空気タンクを使って、57mの深度で作業をすることの安全面からの是非については論じない。レジャーダイビングでは30mを限界と定めているが、職業潜水士にそのような規則は無いし、作業潜水の常識についても私は知らないからだ(とは言っても、ナイトロックスも使わずこんな深度まで潜るなんて無謀だという思いはある。ナイトロックスとは、通常空気よりも酸素濃度を高めた酸素と窒素の混合ガスのことである)。

 死亡した3人のタンクの空気残圧はゼロだったという。また司法解剖の結果、水面に浮上してきた作業役の二人は水死、海中から発見された連絡役は急性窒息が死因だったという。

 「ダイビング歴100回程度のレジャーダイバー3人が、タンクの残圧確認を怠って同時に死亡」と聞いたらあり得るだろうなと思う。しかし、「インストラクターが残圧確認を怠って3人同時に死亡」と聞いたら、即座にありえないと答える。インストラクターのレベルになると、タンク容量と初期圧力から、どのくらいの深度にどのくらいの時間潜れるということが皮膚感覚でわかるからだ(最近、低レベルのインストラクターが増えているという話もあるがここでは触れない)。いわんや、30年のキャリアがある職業潜水士3人が、タンク残圧の確認を怠って死亡ということはあり得ない。

 また、3人のうち2人はこの深度の作業経験が豊富だが、1人は初めてだったために窒素酔いを起こし、それがトラブルを誘発したという見解がある。

 窒素酔いとは、30m以深に潜水して高気圧窒素を吸った時に起きる一種の中毒症状のことである。窒素酔いになるかどうかは個人差があり症状も様々である。本当に酒に酔ったような状態になる人もいれば、突然笑い出す人もいるという。私は比較的窒素酔いになりやすく、その症状は極度に視界が狭まり現実感が無くなるというものだ。「あー、窒素酔いだ」と自覚できるので、5mほど水深を上げると嘘のように症状は消える。

 しかし、たとえ1人が窒素酔いになったとしても、3人全員が死亡するのは理解できない。窮地に陥った1人を助けようとしてトラブルになったとしても、このレベルの潜水士が3人とも死んでしまう状況は想像し難い。

 私の推理は、

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筆者

湯之上隆

湯之上隆(ゆのがみ・たかし) コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

1987年京大修士卒、工学博士。日立などで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、各種雑誌への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。 【2016年8月WEBRONZA退任】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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