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亡国への愛国心と憎しみ無き世界への祈り

浜矩子 同志社大学大学院教授(国際経済学)

 「愛国心だけでは不十分だ。私は私の心の中に一切、憎しみを抱いてはいけない」。イギリス人看護師、イーディス・キャヴェル(1865~1915)の言葉だ。

 彼女は、第一次大戦時に最前線で看護に従事した。そして、敵味方の分け隔てなく、多くの命を救った。結局はドイツ軍に銃殺処刑されたが、彼女の助命を求める声は世界中から上がった。

 誠に誠に、キャヴェル看護師がいう通りだ。誰かを憎むことにつながるような愛国心は、結局のところ、亡国につながるばかりだ。誰も、誰をも憎まない。真に平和を望むなら、誰もがそこを目指すべきだろう。

 旧約聖書の中に、次の言葉がある。「あなたがたは、心の中で兄弟を憎んではならない。」(レビ記19章17節)アングリカン信者だったキャヴェル看護師は、きっと、この言葉を意識してあの有名な言葉を発したのだろう。

 心の中に憎しみを抱かないことは、とてつもなく難しい。それは無理だと言いたくなる。心の中にある憎しみを、決して表には表さない。それで勘弁して頂けないか。そう神様にアピールしたくなる。だが、聖書はそれでいいとは言っていない。心の中から、憎しみを追放しなければならないのである。それでこそ、我が被造物なり。神様はそうおっしゃりたいのだろう。

 ひるがえって、今日の現実をみればどうか。

平和記念式典に参列する安倍晋三首相=6日午前、広島市中区平和記念式典に参列する安倍晋三首相=2014年8月6日午前、広島市中区

 不戦を誓った日本人たちは、まさしく、魂の奥底から憎しみを追放した人々ではなかったのか。そのことに、世界が驚きと感動を抱いてくれたのではなかったのか。

 そのような国民に尽くすのが仕事であるはずの国家において、

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