いつの間にかインバウンド観光の損失補塡に
2020年09月23日
新しい休み方、仕事とプライベートの両立方法として注目を集めるのが、ワーケーションである。
ワーケーションは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語である。これまでのテレワークは、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」に分かれていた。ワーケーションはプライベートの時間に、旅行先などで好きな時間に働くことを指している。
この言葉が全国区となり認知度が上がったのは、2020年7月27日の菅義偉官房長官(当時)の発言だ。政府の観光戦略実行推進会議においてリゾート地、温泉地などで余暇を楽しみつつ仕事をするワーケーションの普及などについて言及した。政府としても普及に取り組むという。民放各社や全国紙が報じた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観光業が大変厳しい状況にあることを指摘した上でのコメントだった。
その後、7月29日の記者会見でも、ワーケーションを含む観光振興策に言及した。観光は地方創生の切り札であり、地域の発展に影響するものだと強調した。特に具体策を述べたわけではなかったが、この言葉が官房長官の口から発せられたこと、ちょうど、観光振興策としてのGO TOトラベルキャンペーンに批判が集まっていた渦中での出来事だったこともあり注目された。
この10数年間にわたり、日本の観光産業は訪日観光客(インバウンド)の増加による恩恵を受けていた。しかし、新型コロナウイルスショックで日本への観光目的での入国が困難な状況にあり、観光業界は危機的な状況を迎えている。これを補う策として、ワーケーションに期待が集まっている。
政府も支援する姿勢を示している。2020年夏に内閣府は、新型コロナウイルス感染症における様々な対応・取り組みの支援を行うことを発表した。ワーケーションや人材マッチング等の新たな地域移住等の需要の取り込み支援、テレワークの導入、テレワーク用サテライトオフィスの整備支援を行う。これがワーケーション推進の追い風となる。環境省も、国立・国定公園、温泉地でのワーケーション推進を支援し、新型コロナウイルスの感染拡大により甚大な影響を受けている地域経済の活性化を目的とした補助事業を行う。
このワーケーションの旗振り役の一つは、JALである。もともと同社は2015年から働き方改革に力を入れ、テレワークの普及などに取り組んできた。
ワーケーションは2017年7月に同社が社内の働き方改革の一環として始めたものだった。同社でテレワークの普及が進んだ過程で始まった。休暇期間中にテレワークでの業務を認めるという取り組みだった。同社のサイトによると「長期休暇取得の際、急な会議が入っても休暇の日程変更をしなくて良いだけでなく、休暇期間中に会社が協賛する地域でのイベントへの参加なども可能になりました」とある。前提として、有給休暇の取得を促す上での仕組みでもあった。同社は社員がワーケーションを実践し、自らをケーススタディとして各種パブリシティで発信している。さらには、出張中にも休暇をとることができる「ブレージャー」も提案された。
これを顧客向けにも広げた。2020年夏現在、海外旅行は我が国も、海外も出入国の制限があり渡航を自由に行うことができないが、同社のサイトにはハワイでのワーケーションのプランが掲載されている。「海外ダイナミックパッケージ(航空券とホテルを組み合わせるプラン)」のコーナーにおいて「Flexible Worker 働き方も自由にする旅」というコンセプトを提示し、旅行と仕事を両立する旅をサポートするプランを紹介している。
同サイトによると「平日の業務時間中はホテルで仕事をし、早朝や夕方以降は家族でハワイを満喫。家族みんなで行くハワイ旅行で、オンとオフを両立させ、より豊かな人生を目指しませんか。」というスタイルが提案され、夫はWi-Fiや電源が整ったホテルで日中仕事をし、他の家族はビーチや買い物を楽しんだ上で、仕事が終わった夕方は家族揃ってハワイの夕焼けと絶品料理を楽しむディナークルーズでハワイの夜を満喫するというものである。
JALはこの他にも、ハワイや国内の自治体と連携した実証実験を行い、一部は報告会も行われている。関連する団体も立ち上がった。
同社の他にこのコンセプトを推進してきた企業が、三菱地所である。三菱地所は2018年8月に、テナント企業に対してワーケーションの提案を始めた。和歌山県白浜町に、簡易オフィスを設置し、同社が管理する大都市部のテナント企業に呼びかけ、リゾート地での新しい働き方を提案した。他にも同社は、長野県軽井沢町などに拠点を設置した。
ただ、菅官房長官の発言で注目されたこのコンセプト
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