古賀太
2012年03月14日
もともと現代美術展というものは、人が入らない。2、3カ月やって1万人入ればいい数字だ。ところが2011年の12月17日に始まった同展は、3月12日(月)の時点で6万人を超えているという。なかには、「冬子マニアです」と何度も通う若い女性もいるらしい。その人気の秘密は何なのか。
新聞や美術雑誌のインタビューではあえて触れていないが、松井冬子はとんでもない美人だ。2月27日号の『アエラ』は、まるでモデルのようにピタッと決めた彼女が表紙だ。朝日新聞美術欄の和服の写真は、まるでモデルみたいだ。
去年末には、鈴木京香や三谷幸喜らと共に紅白歌合戦のゲスト審査員もやっている。こちらも和服での登場。ネットで検索すると、『SAPIO』の「美人すぎる○○」アンケートで「美人すぎる日本画家」のダントツ一位だったようだ。
横浜美術館の広報担当によれば、彼女はテレビも含めて自分が媒体に出ることに極めて協力的だという。紅白以外にも、日テレの「News Zero」など美術番組以外にも出ている。専門雑誌『美術手帳』でも、作品と同様に彼女自身の姿が数多く写っている。
最初私は、そんな出たがりのセレブな感じが女性に受けるのかと思った。しかしそれにしては女性客たちは落ち着いていて、ミーハーには見えない。松井の絵と観客を代わる代わる見ているうちに、次第にその2つが重なって見えてきた。彼女たちは自分の生き方を探して、松井の絵にたどり着いたのではないか。
その作品には、生物は女か動物のメスしか登場しない。彼女を思わせる美人が多いが、幽霊のように足がなかったり、お腹から内臓がはみ出していたり、骸骨に蛇が巻きついていたり、グロテスクな絵が多い。そして痛い。多くの絵で、まるで自傷行為をした後のように、どこかに血が流れている。内臓がはみ出す女や動物だって、ある種の自傷行為と言えるだろう。
展覧会の副題にもなっている《世界中の子と友達になれる》は卒業制作(2002年)と修士修了作品(2004)の2点があるが、卒制の方は、藤の花が垂れ下がった中を下着姿で歩く少女を描いている。その少女は笑っているが、よく見ると楽しそうではない。手も足も血まみれで、まるで「世界の子と友達になれる」と信じ込んで森を彷徨(さまよ)ったあげくの果ての姿のようでもある。
女とメスばかりが出てくると書いたが、まわりに男はおろか、女友だちもいない。いつも孤独で、自然がそれを取り巻く。その中で強い意志を持って生きる。臓物も骸骨も真実だから恐れない。死だって怖くない。自然だけが頼りだ。そんな感じが伝わってくる。媚びないナルシシズムを突き詰めて、強力なフェミニズムに転換しているようだ。
もう一つの魅力は、
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