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[4]摩訶不思議な「特別招待」

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 TIFF(東京国際映画祭)も中盤を過ぎると、毎回関係者のイライラが溜まってくる。「関係者が気楽に集う場所がない」「プレス上映が1回しかないうえ、同じ時間帯に2本あったりする」「記者会見がプレス上映の前にあるのはおかしい」「1回しかないコンペ作品の上映時間に審査員の記者会見があるとは」「そもそもプレス上映の後に正式上映という基本の順序ができていない」云々。

 たぶんこれに対する反論は、会場の都合ということになるのだろうが、連載(1)で述べたように、そもそもシネコンでやる方がおかしいのだ。それをあえてやるということは、要するにプレスとか配給会社などの映画業界の方を全く向いていない映画祭だという意味である。連載(3)で誰のための映画祭かと述べたが、実際に始まってみると、一般観客の心配しかしていないことがよくわかる。

 グリーンカーペットで華やかなイメージを作り出し、国際映画祭の雰囲気を何とか演出しようとしているが、運営の基本がカンヌなどとは全く別物なのである。

 上映作品については、特に矢田部吉彦氏と石坂健二氏がディレクターについてからずいぶん良くなったと言われている。確かにかつてのようにコンペにとんでもない作品が並ぶことはなくなった。しかしコンペやアジア部門がそれなりにレベルアップしても、TIFFは「特別招待作品」という日本独特の摩訶不思議な部門を抱えている。

オープニングの舞台挨拶では、監督や俳優と並んで、映画に出ていない上戸彩が『シルク・ドゥ・ソレイユ』ナビゲーターとして登場=撮影・筆者

 普通、国際映画祭は「コンペ」「コンペ外」に加えて、新しい表現を目指す映画を見せるセクション(カンヌなら「批評家週間」や「ある視点」、ベルリンは「フォーラム」、ベネチアは「オリゾンティ」など)から成る。

 では、TIFFの「特別招待」部門は「コンペ外」かというと、これが全く似て非なるモノなのだ。

 普通「コンペ外」に選ばれるのは、これまで既にその映画祭で最高賞を取った監督の作品とか、キャリアのある監督の小品とか、3Dのような新しい技術を使った話題の作品とか、審査員の新作とか、いわばコンペで競うのに向いていない作品である。国際映画祭では「コンペ」にしても「コンペ外」にしても、その国で公開されるかどうかはあまり関係がない。あくまで質が問題だ。

 ところが「特別招待」には、日本でもうすぐ公開される作品のみが並ぶ。いわば正月興行に向けての国内向けショーケースのような場となっている。ここで興味深いのは、「特別招待」のみは、作品を選ぶのが矢田部氏でも石坂氏でもなく、事務局長の都島信成氏だ。都島氏はカタログにも明記されている通り、東宝からの出向であり、映画関係者ならばかつて興行部(今のTOHOシネマズ)でシャンテなどの番組編成をやっていた人物なのは周知の事実だ。

 つまり「特別招待」枠は業界ナンバーワンの東宝が選ぶという形になっていて、ディレクターたちの権限が及ばない構造になっている。その国で一番大きな映画会社に現在も籍がある人間が、国際映画祭の一部門の選考を任されているというのは、ある意味でスキャンダルとも言えるだろう。

東京国際映画祭期間中、会場はいつものシネコンと変わらない=撮影・筆者

 「特別招待」について関係者に話を聞いているうちに、さらにとんでもない事実までわかってきた。

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