2013年02月02日
小津と言えば、ローアングルのカメラや180度の切り返し、絵画のように細部まで作り込まれた画面と独特のリズムを持つ編集によって、誰にもできない厳格なスタイルを作った監督である。同じ松竹で家族ドラマを扱っているとはいえ、「寅さん」シリーズを始めとしてわかりやすい庶民喜劇を作ってきた山田洋次とは、本質的に格が違う。
しかし、今回『東京家族』を二度見て、予想を遥かに上回る出来だと思った。実を言うと一度目に見た時、とりわけ出だしには面食らった。白々しい光のもとに多摩地区の住宅街や列車が映った時、「違う」と思った。
そして「平山医院」という『東京物語』と同じ名前の病院の看板が映り、夏川結衣が出てきた時、「何だこれは、テレビドラマじゃあるまいし」と思い、その子役が「実」という同じ名前で出て、「じゃあ、勉強しなくてもいいんだね」と同じセリフを吐いた時、「違う、違う」と思わず声を出しそうになった。
ところが見ているうちに、だんだんとこの映画の世界に入ってゆく。とりわけ母とみこ役の吉行和子が出てきてから、画面が和らいできた。決定的だったのは、この母が、紀子役の蒼井優に会う瞬間。
吉行が「あなた、いい感じの人やねえ」と蒼井の手を取るだけで、涙が出てきた。そうして翌朝、幸せでたまらないような顔をした吉行が、長男の家に帰るシーンもいい。
この二人を始めとして、女優たちが光っている。かつて杉村春子が演じた美容師役の中嶋朋子は、ちょっときついちゃっかりした女性を巧みに演じているし、三宅邦子が演じた平山家の主婦役の夏川結衣は、あまり感情を表さず状況を受け入れる大らかさをうまく体現している。
正直に言うと、彼女たちに比べて父親役の橋爪功や長男役の西村雅彦、美容師の夫役の林家正蔵など、男優陣は少し存在感が薄い。それはたぶん現代がそういう時代なのかもしれない。
『東京物語』との最大の違いは、
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