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「小室圭文書」と橋田壽賀子さんの「渡鬼」から結婚と夫婦別姓の隘路を思う

矢部万紀子 コラムニスト

 秋篠宮家の長女眞子さまとの婚約が内定している小室圭さんと、選択的夫婦別姓が似ている。4月8日に小室さんが公表した文書を読んで、そう思ったという話を前回の最後に書いた。

 文書から見えたのが、楽ではない境遇を生きた母と息子の、さながら昭和の物語。何としても息子の教育を守ろうとする母と、一時は婚約していた男性からのお金。息子はそういうもろもろを背景に、眞子さまとの結婚という道を進んでいく。

 作家の林真理子さんは、文書公表前だったが彼のことを「背伸びしすぎている印象」と表現した(「「小室圭文書」を読破してわかった母子の野心のありかと嫌われる理由」)。背伸びしすぎた上昇志向が人を苛立たせ、嫌悪になる。一度そうなってしまうと、「双方が良いなら良いではないか」という結婚一般への理屈は通用しなくなる。嫌悪が際立ってしまい、一般論をふさいでしまうのだと思う。

小室圭さんは「解決金」を払うというが……小室圭さんは、母親の元婚約者に「解決金」を払うというが……

 これって、選択的夫婦別姓への賛否と同じ。そう思った。「選びたい人は別姓を選ぶ、同姓がいい人は同じ姓をどうぞ」。賛成する人間(私もそうだ)には、何の問題もなく呑み込める理屈。それがどうしても通じない。眞子さまの結婚以上に単純な理屈だと思うが、もう長きにわたり通じずにいる。「なぜだか、全然わからない」と憤っていたが、少しわかった気がしたのだ。「嫌なものは嫌って、こういう感情なのかもなあ」と。

「渡る世間は鬼ばかり」における苗字の多用

 小室さん発、選択的夫婦別姓行き。結んだのは、橋田壽賀子さんだった。4月4日、橋田さんが95歳で亡くなったことをきっかけに、しばし彼女の作品を思い起こした。あの「おしん」(NHK)が放送されたのは、社会人1年目の年だった。仕事で失敗すると「おまえも大根飯食っとけ」とからかわれ、思い返せばその先輩は朝ドラなどを見るタイプでは全くなく、それこそが「平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%」の証左なのだが、私はといえば忙しすぎてゆっくり見たことは一度もない。

 その点、入社8年目、1990年から始まった「渡る世間は鬼ばかり(通称、渡鬼)」(TBS)は時々見たぞ。なにせ2019年に3時間スペシャルが放送されるまで続き、一時は秋になると始まって、1年間も放送されていた。あの一家のことは基本的によく知っている。そう頭でたどるうち、はたと思い出したのが、渡鬼における「苗字の多用」だった。

 ご存じでない方のためにざっと説明するなら、「おしん」で大抜擢された泉ピン子さんが主人公・五月を演じている。高校2年で家を飛び出し、住み込みで働いた中華料理店「幸楽」の跡取り息子と結婚して、子どもが2人。怖い姑と五月の闘いの日々が、渡鬼の中心だった。五月の実家は岡倉という姓で、今の五月は小島姓。五月は実家を「実家」と言わず、必ず「岡倉」と言う。小島家の人々も「岡倉」と言う。

 「今日は岡倉に、少し顔をださせていただきます」。五月はそんなふうに言う。「岡倉のやり方がここでも通用するなんて、そんな道理、あるとでも思ってるのかい」などと怖い姑が言う。ちなみに「道理」という単語と「こしらえる」という単語は、渡鬼頻出用語。どちらも橋田さんの愛する「消えゆく日本語」なのだろうと耳にするたびに察していたが、それはさておき、苗字の使用例をもう少し。

「渡る世間は鬼ばかり」の会見で橋田壽賀子を囲む「岡倉ファミリー」2010年9月「渡る世間は鬼ばかり」の発表会見で橋田壽賀子さん(中央)を囲む「岡倉ファミリー」=2010年9月

 岡倉家は5人姉妹。五月は次女で、

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