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女子サッカーから強く発信された人種差別への抗議

世界的な差別問題に直面する東京五輪の別の顔

増島みどり スポーツライター

 札幌ドームで行われた東京五輪女子サッカーE組の2試合目(7月24日)、「なでしこジャパン」はメダル候補の強豪・イギリスと対戦(0-1で敗退)した際、日本のチーム競技として、五輪では過去例のない「選択」をした。

なでしこジャパン 片膝をつく

試合前、ピッチ上で片ひざをつき、人種差別に抗議する熊谷紗希(右)と中島依美。手前は英国のウォルシュ=2021年7月24日、札幌ドーム

 キックオフ前、ピッチに膝をついてイギリスチームと向き合い、審判もこれに同調。約30秒間、ピッチにいる全員が同じ目線で人種差別に抗議するという、国内のスポーツシーンでも、無論、オリンピックでも見られなかった光景が繰り広げられた。

 この試合の3日前の21日、開会式に先立ってスタートした女子サッカーでは、日本と同じE組のイギリスとチリ、G組のアメリカ、スウェーデン、ニュージーランド5カ国が、キックオフ前、ピッチのフォーメーションの位置で片膝をついて差別への抗議の意志を表明。これが発端となった。

 ニュージーランドと対戦したオーストラリア(豪州)代表「マチルダス」(民謡から付けられたニックネーム)は、片膝はつかなかったが、記念撮影の際、肩を組み、先住民族「アボリジニ」の旗を掲げ、人種差別への強い抗議メッセージを送っている。

 なでしこジャパンのキャプテン・熊谷紗希はイギリス戦後の会見で、欧州でプレーしているためクラブでは、こうした抗議活動は常に行っている、としたうえで、「イギリスチームへのリスペクト(敬意)を込めて、ひざをついた。試合前にチーム全員で話し合い、人種差別について、これから先も考えるきっかけにしたい」と説明した。

 ニュージーランド戦でゴールを奪った豪州のヤロップは、アボリジニの旗を記念撮影に加えた理由をこう話す。

 「国際的な見地から人種差別にもちろん抗議する。一方でオーストラリアにも同様の問題はあり、私たちは先住民の皆さんをも含めた〝代表〟であると連帯したかったからです」
ヤロップは、チームメートでアボリジニ族出身のキア・サイモン、リディア・ウィリアムズの名前をあげた。

 女子サッカーで起きている、こうした前向きで強いアピールは、本来なら、IOC(国際オリンピック委員会)によって違反行為となるはずだった。

こぶしを上げ、最初に五輪から追放された2人が、東京に向けた活動に参加

 IOCは、憲章の規則の中で、「いかなる種類のデモンストレーションも、いかなる種類の政治的、宗教的、もしくは人種的な宣伝活動は認められない」と定めている。

 1968年のメキシコ五輪男子200メートルで、金メダルを獲得したトミー・スミスと、銅メダルのジョン・カーロスの米国選手2人が、表彰台で黒人の貧困を訴えるためにシューズを履かずにソックスで、また差別への不条理を訴えようと、黒の手袋を突き上げた、「ブラック・パワー・サルート」(サルートは英語で礼や式を意味)は、過去もっとも政治的な行為として今も広く知られる。

メキシコ・オリンピックの陸上競技・男子200メートル表彰台で、黒手袋をしたこぶしを高く上げて、人種差別に抗議するトミー・スミス(中央)とジョン・カーロス(右)。2位のピーター・ノーマン(左)も彼らに連帯の意思を表した=1968年10月16日、メキシコシティ
 当時のIOC(ブランデージ会長)から「オリンピック精神の基本原理に対する計画的で暴力的な違反」と断定され、2人は五輪から追放処分
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