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「電子予防接種証明書」がもたらす新たな「差別」

その恐れを十分に意識したうえで、一刻も早く準備に取り組め

塩原俊彦 高知大学准教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策として、ワクチン接種がスタートした。世界中のだれもが一歩前進と感じているかもしれない。だが、ものごとには表と裏がある。ワクチン接種の開始はワクチンを打った人とそうでない人を区別する。ワクチン接種を証明するための「電子予防接種証明書」が発行されるようになると、この区別は新しい「差別」を人々に植えつけることになりかねない。

「予防接種を受けていますか? アプリを見せてください」

 「今後数週間に、ユナイテッド、ジェットブルー、ルフトハンザを含む主要航空会社は、乗客のウイルス検査結果、そして間もなく、予防接種を確認することを目的としたコモンパス(CommonPass)と呼ばれる健康パスポート・アプリを導入する計画である。」

 こう伝えているのは、2020年12月13日付の「予防接種を受けていますか?アプリを見せてください」という「ニューヨーク・タイムズ電子版」の記事である。このアプリは、乗客が特定の国際便に搭乗できるようにする確認コードを発行するもので、安心して空の旅を楽しんでもらうための不可欠の条件となる。

 記事によれば、ユナイテッド航空は2020年10月、新型コロナウイルス検査で陰性であったことを証明する書類の提出に代えてアプリを利用する実験を、ロンドンのヒースロー空港から米ニュージャージー州のニューアーク・リバティー空港間のフライトで行った。この結果を受けて、ユナイテッドと他の4つの航空会社はいくつかの国際便でこの「コモンパス」の利用を開始する計画だ。乗客は、航空会社のチェックインカウンターや出発ゲートで確認コードの提示を求められる。もちろん、スマートフォンを持たない国際航空旅行者が健康状態を確認する必要がある場合、確認コードを印刷して、紙の搭乗券と同じように空港で見せることができる。

 この「コモンパス」にワクチン接種を受けたという証明書を加えることも検討されている。こうすれば、ウイルス検査陰性とワクチン接種の二つを国際線搭乗の条件とすることもできるようになる。

 この「コモンパス」はロックフェラー財団支援のNPO団体であるThe Common Projectおよび世界経済フォーラム(WEF)が共同で推進する「コモンパス・イニシアチブ」に基づいて開発・導入が進められている。同イニシアチブがめざしているのは、世界共通の検査結果・ワクチン接種の電子証明書「コモンパス」の導入である。将来的には、さまざまの健康データの収得・管理・提示を可能とする枠組みとなりうる。

 1960年代に黄熱病が流行するなかで、世界保健機関(WHO)は国際的な渡航書類として、黄熱病の国際予防接種証明書である、通称「イエローカード」と呼ばれるものを導入した。現在でも、特定の地域からの旅行者は空港でイエローカードの提示が義務づけられている。この前例を考慮すると、COVID-19対策としてのワクチン接種を証明する「電子予防接種証明書」が導入されてもまったくおかしくない。

「区別」が社会に新たな「差別」を生み出す?

 紹介した「ニューヨーク・タイムズ」の記事は、米連邦政府が新型コロナウイルスの予防接種を受ける者に個人記録カードを配布し、医療提供者、ワクチンメーカー、バッチ番号、接種を記録にとどめることを計画していると伝えている。ただ、連邦保健機関は第三者のデジタル接種証明書に関するガイダンスをまだ明らかにしていない。このため、企業や非営利団体が独自に「COVID-19ヘルスパスアプリ」を導入

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