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ワクチンパスポートの活用にはルールが必要

「早期活用を求める」経団連の提言は第一歩

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年6月22日、ロシアの俳優エゴール・ベロエフはテレビ番組の授賞式に、ナチス・ドイツの支配下にあった地域のユダヤ人が身につけることになっていた「恥のしるし」である黄色い星(六芒星)を上着に縫いつけて出席した(写真を参照)。これは、ワクチンを接種していないロシア人に対する差別に対抗するための彼なりのデモンストレーションであった。彼はつぎのように叫んだ。

 「頭の良い人と悪い人、ダウン症の人とそうでない人、白人と黒人、ユダヤ人と異邦人、ワクチンを接種した人としていない人など、社会の分離を許してはいけない。」

黄色い六芒星を胸に付けてテレビ出演したロシアの俳優エゴール・ベロエフ
(出所)https://ria.ru/20210624/beroev-1738361016.html

差別にどう向き合うべきか

 ナチスが行った人種差別とワクチン接種者と非接種者の区別を同列に論じることに違和感をおぼえるのは筆者だけだろうか。実は、ロシア人ジャーナリストのユーリヤ・ラティニナも筆者と同じくベロエフの所業を「詭弁」と厳しく非難している(「選ぶ権利があるのは個人だけでなく、その構成員の健康を守る社会にもある」を参照)。

 彼女はつぎのように指摘している。

 「人類は、人々をさまざまなカテゴリーに常に分けている。私たちは生まれながらにして平等であり、それは独立宣言にも書かれている。しかし、収容所や共産主義者の妄想のなかを別にすれば、我々は平等ではない。」

 さらに、なぜベロエフの主張が詭弁であるかについてつぎのようにのべている。

 「なぜなら、ベロエフの言うこととは逆に、ワクチンを打っていない人がレストランに入れなかったとしても、その人の命が『公共の利益のために犠牲になった』とは限らないからである。まさにその逆で、ワクチンを打っていないナルシストがレストランに入ると、自分の思い上がりや無知のために他人の命を犠牲にしていることになる。そして、社会はそれを禁じる義務がある。」

 ゆえに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の最中に自らの選択でワクチンを接種しなかった人は、ワクチンを接種した人が享受しているのと同じ機会を享受することができないのは当然であると、彼女は主張する。

 それは、海外を旅行したりする際のいわゆる「ワクチンパスポート」の利用を正当化する理論であるだけでなく、映画や劇場に入場する際にもワクチンパスポートのような接種証明の有無で区別することを正当化することでもある。

「早期活用を求める」経団連の提案

 筆者は、拙稿「再論「ワクチンパスポート」」のなかで、「もっと想像力を働かせて、いまからでもいいからしっかり議論しないと結局、なし崩し的な『差別』がまかり通ってしまうことにならないか。大いに心配される」と書いておいた。

 そうした筆者にとって、6月24日に経団連の新型コロナウイルス会議が公表した「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」という提案は一歩前進に

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