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火星で地球の生命誕生を探る「好奇心」

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

 米国の航空宇宙局(NASA)の打ち上げた火星探査機「キュリオシティ(日本語で「好奇心」)」が日本時間で2012年8月6日午後2時32分、火星のゲイルクレーターに無事着陸した。2年間の打ち上げ延期後、昨年11月に打ち上げられ、5.66億kmを約9カ月かけて航海してきた。針の穴に糸を通すよりも数千倍以上の精確さを達成しての着陸だ。もともと16億ドル(約1280億円)の予算で始まり、最終的には25億ドル(約2000億円)もかかった巨大国家プロジェクトである。
キュリオシティが送信してきた火星の画像。前方に、火星史情報の宝庫とみられるシャープ山が見える=NASA/JPL-Caltech提供

 火星サイエンスラボラトリーミッションのプロジェクト主任研究員であるジョン・グロツィンガー氏によると、キュリオシティの使命は、地球で最初の生命が誕生したころの火星の状態を探ることにある。火星のほうが地球より過去の状態が保たれているので、火星の過去を明らかにすることは、間接的に地球での生命誕生の歴史を理解することに役立てられる。それが、今回の最大の目的である。

 生命が存在するためには、水、エネルギー、炭素の三つの要素が必要とされている。今までの火星観測・探索では、過去に水が存在し、現在もしばしば存在していることがわかっている。また、生命の代謝に必要なエネルギーを生み出す化学反応が火星のどのあたりに存在した可能性があるか、という見当もある程度ついている。

 しかし、生命の誕生、また、その後の生命活動の維持を可能にする炭素がどこに存在するのかについては未だに明らかになっていない。そこで、これを明らかにし、その痕跡を発見することが、キュリオシティの主たる役目である。地質学的時間を数十億年もさかのぼることは容易ではない。それでも、キュリオシティにはそのことを可能にする機能が二つ搭載されている。

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