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プルトニウム238と太陽系科学者のジレンマ

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

米国がプルトニウム238の生産を25年ぶりに再開したというニュースが先日報じられた。これは昨今の議論の中心になっている原子力発電、原子力爆弾に関係する核燃料とは全く別もので、宇宙探査で使われる原子力電池(RTG)の燃料になるものだ。とはいえ、危険な放射性物質であることに違いはなく、「宇宙探査なのだから構わない」と言い切れない。太陽系科学者にとって悩ましい問題である。

 RTGとは、連鎖反応しないタイプの核分裂の熱を、熱電対というタービンを使わない方式で直流電気に直す電源だ。燃料の半減期に相当する長い期間の発電を完全無人で続けられる。燃料としてはアメリシウム241やストロンチウム90も可能で、例えば旧ソ連の無人灯台などで使われてきたが(その盗難が問題になったりしている)、宇宙探査では専らプルトニウム238が使われている。

 RTGの特徴は以下の通りである。

* 構造がシンプルで、放射線の遮蔽が簡単である。

* 連鎖反応をしない核物質を使うので爆発の危険がない。

* 従って、どの燃料も核兵器に使えない。

* 冷却源がまわりにある所に有利である。例えば宇宙は無尽蔵の冷却源そのものである。

 1960年代には人工衛星に、70年代はバイキング着陸船などの火星ミッションで使われた。世間を熱狂させたボイジャーもパイオニアも火星ローバーもこれ無しでは不可能だったし、木星や土星の衛星の様子などはRTGを積んだガリレオやカッシーニなしに知ることはできなかった。夜が14日も続く月での基地作りも、RTGなしには計画が困難だ。

 燃料として主にプルトニウム238が使われる理由は、

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