
ズーム上で議論する村山治さん(下)、松下秀雄編集長(左上)、奥山俊宏(右上)=2021年7月21日夜、東京都中央区築地
朝日新聞社の言論サイト「論座」の松下秀雄編集長と朝日新聞編集委員の奥山俊宏は7月21日夜、ジャーナリストの村山治さんを招いて、検察と政治の関係をテーマに、インターネット上でオンライン記者サロンを開きました。『安倍・菅政権 vs.検察庁』などの著書で知られる村山さんを中心に、ズームのウェビナー機能を用い、視聴者と質疑を交わしました。その模様を録画したビデオのうち、前半の72分がこの原稿の冒頭に掲載しました動画です。後半の72分の動画はこの原稿の末尾に掲載しています。

スタート時点のAJトップページ=2010年7月21日
朝日新聞社のニュースサイト「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」(AJ)は2010年7月21日に記事の発信を始め、今年6月1日、「論座」の傘下に引っ越しました。AJが始まったときの目玉記事のうち1本は、前首相だった鳩山由紀夫氏に対する検察捜査を取り上げた村山さんの記事、もう1本は、前民主党幹事長だった小沢一郎氏の不起訴に対する検察審査会の議決を取り上げた記事でした。
始まったばかりの民主党政権下で特捜検察は2009~2010年、当時の鳩山由紀夫首相(民主党代表)と小沢一郎・民主党幹事長を対象とする事件捜査を進めました。検察は結局、国務大臣の不訴追の特典を定めた憲法の規定を意識して鳩山首相の取り調べを見送り、また、秘書らとの共謀を立証するに足りる証拠がないとして小沢幹事長も不起訴にしました。しかし、鳩山氏は2010年6月、「政治とカネ」の問題を一因に挙げて首相と民主党代表を退陣し、小沢氏は2011年1月、検察審査会の議決に基づいて指定弁護士によって起訴されました(のちに無罪判決が確定)。21日のオンライン記者サロンでは、民主党政権発足時の二大巨頭、鳩山氏と小沢氏に対する特捜検察の捜査から議論を始めました。
AJがスタートして2カ月後の2010年9月、大阪地検特捜部で証拠改ざん事件が発覚しました。東京地検特捜部でもその後、事実と異なる捜査報告書を作成した問題が明らかとなり、2012年に担当検事が懲戒処分を受けて辞職しました。これらは検察組織を震撼させ、以後、特捜検察は萎縮の時代に入ります。
2012年12月には、民主党に代わって自民党が政権与党に返り咲き、安倍内閣が発足しました。安倍内閣は2020年9月まで続き、安倍首相の後任となる菅義偉氏が官房長官としてこれを支えました。
他方、2010年2月から2019年12月までの10年近くにわたって、特捜検察による国会議員の逮捕・訴追は途絶え、これは結果的に、戦後最長の「空白」期となりました。
捜査を尽くし、訴追するべきなのに、検察が敢えてそれを避けた事件があったのではないか、との疑念が、国民の間に膨らんでいきました。
安倍・菅政権による検察人事への介入が始まったのは、検察の萎縮が極まり、国民に疑念がくすぶる2016年9月のことでした。
法務・検察当局は、林真琴刑事局長を法務事務次官に昇格させ、検事総長への昇進ルートに乗せるとの意向でまとまっていましたが、安倍・菅内閣はこれを受け入れず、代わりに官房長だった黒川弘務氏を次官に就任させ、やがて東京高検検事長にしました。以下の記事リストのとおり、村山さんはほぼリアルタイムでこの経緯を克明に報じていきました。
2020年1月には、検事総長を除く検察官について63歳で退官すると定めた検察庁法について、安倍・菅政権はその解釈を突如として変更し、黒川検事長の勤務の延長を閣議で決定。さらに、同年3月には、検事総長、検事長、次長検事の勤務延長を内閣の裁量で可能にする法案を閣議決定して、国会に提出し、5月にそれを成立させようとしました。
そのときでした。ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」との投稿があふれるように増え、内閣支持率が目に見えて低下したのです。政府は、検察庁法改定の断念に追い込まれました。その上、黒川検事長は賭け麻雀を暴露され、検事総長になることなく辞任し、代わりに、林氏が検事総長に就任しました。検察首脳人事をめぐる安倍内閣の2つの試みはいずれも頓挫したのです。安倍氏がその年の8月28日に首相辞任を表明するまで、内閣支持率が回復することはありませんでした。

村山治さんの著書『安倍・菅政権 vs. 検察庁』の表紙
村山さんは2016年11月以降、こうした安倍・菅政権による検察人事への介入を赤裸々にする記事をAJで発表してきました。そして、2020年11月、著書『
安倍・菅政権 vs.検察庁 暗闘のクロニクル』を出版しました。

ズーム上で議論する村山治さん(下)、松下秀雄編集長(左上)、奥山俊宏(右上)=2021年7月21日夜、東京都中央区築地
特捜検察は、安倍首相の政治団体の政治資金規正法違反容疑を捜査し、2020年12月、前首相となった安倍氏の秘書を起訴しました。
検察は職責上、政治からの独立性を要請されています。一方で、政府の一機関として検察首脳の人事権は内閣に握られており、検察は内閣を通じて国民の民主的統制に服する仕組みとなっています。このように単純には一刀両断にできない、微妙なバランスの問題にも、論座AJオンライン記者サロンの議論は及びました。
菅政権発足後、学術会議会員人事への政権の介入が大きな問題となり、NHK人事への関わりも取り沙汰されています。これは、法務・検察人事への政権の介入と同根の問題です。
オンライン記者サロンではこうした経緯と論点を俯瞰的に取り上げて、今後への教訓を探り、視聴者からの疑問に答えました。
論座(全ジャンルパック)もしくは朝日新聞デジタル(プレミアムコース、ダブルコース)の購読者は以下のリンク先から、オンライン記者サロンで用いたパワーポイントのスライドのPDFファイルをダウンロードすることができます。
メーンのスライドのPDF
検察庁法などの規定を抜粋したスライドのPDF
検察官の定年と2020年の検察庁法改定案の内容に関するスライドのPDF
学術会議やNHKの人事に関する論座の記事のスライドPDF
論座AJオンライン記者サロンは今後も来年(2022年)3月まで月1回のペースで開いていく予定です。第2回は8月18日(水)午後7時からの開催を予定しています。参加のお申し込みはこちらのサイトで:https://que.digital.asahi.com/question/11005249
以下の動画は、7月21日夜のオンライン記者サロンの後半72分で
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